2024年利上げ警戒で長期金利は1%の上限に迫る!住宅ローン金利はこの先どうなるか?専門家が2023年11月の住宅ローン金利を予想
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こんにちは公認会計士の千日太郎です。
この記事を書いている時点で、長期金利は0.8%を超えてきています。
9月の日銀会合では大規模金融緩和の継続が決定されたものの、政策委員の一人が「2%の物価上昇の実現が来年1〜3月ごろには見極められる可能性がある」と主張していることから、来年の春闘で高い賃上げ率を見通せる状況になれば、緩和正常化を判断できると見る市場関係者もいます。
投資家の間ではいよいよ利上げ時期が近いとの警戒感から長期金利はこれまでになく上昇しており、これに伴い住宅ローンの固定タイプは上昇傾向が続いています。
こちらは10月から11月にかけての主要銀行の住宅ローン金利予想となっています。詳しくは以下の記事で解説していますので、ぜひ読んでみてください。
金利タイプ | 10月参考(※) | 11月予想 |
---|---|---|
フラット35 (買取型) | 1.88%~ | 1.90%前後に上昇 |
民間の長期固定金利 | 1.4%台~ | 上昇傾向だが銀行により対応が分かれる |
20年固定金利 | 1.7%台~ | 上昇する |
10年固定金利 | 0.9%台~ | 上昇するが銀行間の競争で上げ幅に差がある |
変動金利 | 0.3%台~ | 横ばい |
※10月の金利については参考として主要銀行の金利から、小数点第2位を切り捨て表示しています。
この記事では、執筆時点で公開されている「金融市場の動向」と千日太郎が公認会計士として培ってきた金融ビジネスに対する知見をもって推理する「銀行の営業方針」から2023年11月の住宅ローンの金利動向を金利タイプごとに予想します。
※当記事の金利や情報は2023年10月9日時点のものを記載しております。
最新の金利情報は、必ず金融機関等の公式サイトをご確認ください。
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長期金利は日銀も想定外の1%に迫る
こちらは2023年6月1日から2023年10月6日までの日本の長期金利と日経平均株価の推移をグラフにしたものです。
オレンジ色の折れ線グラフが長期金利ですが、7月27日あたりで大幅に上昇しています。
これは同日に行われた日銀の金融政策決定会合で、金融緩和という方針はそのままにYCC(イールドカーブ・コントロール)政策の運用が修正されたことが原因です。
日銀は長期金利の上限を0.5%としていたのですが、今後は0.5%程度を目途としつつこれを超えることを容認し、1%を超えそうになったら指値オペで上昇を抑えるという方針転換を行いました。
このYCC政策の修正については、単に上限を1%に引き上げるのではなく、従来の0.5%上限を目途として維持する(超えることは容認)というものです。
会合後の植田総裁への記者会見では1%に上がることは想定しておらず、念のためのキャップとして設定すると答えていました。
しかし、その後も長期金利は上昇を続けており、10月に入ると0.8%台の大台を突破しています。わずか2か月前には植田日銀が想定していなかった長期金利の上限1%が見えてきているのですね。
オレンジ色の折れ線グラフの長期金利が右肩上がりに上昇を続けているのに対し、黄色の折れ線グラフの日経平均株価の方は9月を境に右肩下がりに下がってきています。
こうした想定外の金利上昇を懸念する投資家によってリスク資産である株が売られ、安全資産である債券が買われているということです。
米国の住宅ローン金利は7%超え日本への波及は?
米国の30年固定の住宅ローンの金利は8月中旬以降7%を超え、住宅購入申請の指数は28年ぶりの低水準となっています。
既に住宅を所有している人は低金利の住宅ローンを堅持しており、物件不足に拍車を掛けています。
フレディマック(連邦住宅貸付抵当公社)が11月5日に発表した住宅ローン金利によると、30年物固定住宅ローン金利は平均で7.49%、その前週は7.31%でした。
こちらは2023年6月1日から2023年10月6日までの日本と米国の長期金利の推移です。
黄色い折れ線グラフが日本の長期金利、オレンジ色が米国の長期金利です。ベースとしては日本の0%が米国では3.4%となっていますので、日米の金利差は実に3.4%あるということになります。
さらに日本よりも米国の方がダイナミックに上昇しています。特に9月21日には米連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利見通しが示され、高金利政策が続くとの観測が台頭したことで、長期金利が急上昇しました。
日本の金利上昇は米国と比べるとまだまだ小さいため、日米の金利差は拡大しています。
8月までは概ね3.4%の金利差でしたが、10月にはさらに0.6%ほど差が広がっているので実に4%もの金利差になっています。これが150円台という円安を引き起こしている主な要因です。
こうして見ると日本の長期金利には大きな上がり代が残っていると考えてよいですね。
今後さらに日本の長期金利が上がって住宅ローンの固定金利が上がってくると、米国と同様に住宅の価格とローン金利の上昇が購入希望者を締め出す形となり、今の手の届きにくい住宅市場にさらに拍車がかかってくるでしょう。
銀行の営業方針~若い住宅ローン利用者を獲得したい銀行の思惑
主要銀行は8月から10月まで連続して固定タイプの住宅ローン金利を軒並み上げてきています。
特に、多くの民間銀行が主力とする10年固定金利の上げ幅には主要銀行間でも差があり、SBI新生銀行は唯一金利を下げました。
ただし、ネット銀行を含め住宅ローンに力を入れている多くの銀行が長期金利の上昇幅と同程度上昇させています。これらの上げ幅が基本であり、多数派となっています。
ただし、民間銀行としても住宅ローンで顧客を集めたいというインセンティブは強く残っています。
住信SBIネット銀行は、ネット銀行としては国内初の50年住宅ローンをスタートさせています。
住宅価格が上がり、さらに金利が上昇して住宅ローンの固定金利が上がってきており、従来の35年ローンでは銀行がターゲットにしている30代の若い世帯が購入を希望する物件で住宅ローンを組めなくなっているためです。
もしも日銀が政策を修正すれば、いよいよ利上げが近いということですから、これまでになく急激なペースで長期金利が上がっていきます。
住宅ローンの固定金利は長期金利と連動するという建前ですから、先行して固定金利タイプが上がることになります。
今の不動産価格の上昇と長期金利の上昇は銀行にとって住宅ローンの獲得を難しくしている要因でもあります。
長期金利ではなく政策金利に連動する変動金利の利用を勧める営業方針を採る銀行もありますが、ここまで日銀による政策金利の上昇が警戒されている環境下では、購入希望者も変動金利の選択に二の足を踏むケースも増えてくるでしょう。
現時点では民間銀行によっても対応に差がある状態です。
銀行の住宅ローン金利の変更は、目立たず、少しずつ行われていくので、ある程度推移を見ていく必要があります。私は主要銀行の金利推移を分析し、毎月お勧めの住宅ローン金利タイプを紹介していますので、下記の記事も参考にしてください。
金利タイプ別2023年11月の金利予想
では、住宅ローンの各金利タイプ別に2023年11月の金利がどうなっていくのか予想していきます。
10月9日までの公開情報を前提とした予想になります。
【金利タイプ別】
2023年11月の金利予想
公的融資フラット35の金利動向
下のグラフは8月から10月までのフラット35(買取型)の金利と長期金利の推移です。
オレンジ色の折れ線グラフは長期金利の推移であり、黄色の棒グラフがその機構債の条件公開のタイミングで決まったフラット35(買取型)の金利です。
(機構債発表日) | 8月金利 (2023年7月21日) | 9月金利 (2023年8月17日) | 10月金利 (2023年9月21日) |
---|---|---|---|
長期金利 | 0.47% | 0.62% | 0.72% |
機構債の 表面利率 | 0.93% | 1.02% | 1.08% |
フラット35 | 1.72% | 1.80% | 1.85% |
フラット35は下図のように独立行政法人である住宅金融支援機構が民間金融機関から債権を買い取って証券化し、機関投資家に債券市場を通じて機構債という形で販売するという仕組みになっています。
この機構債は毎月20日前後に表面利率を発表し募集します。投資家は機構債を安全資産という考えで購入しますので、その表面利率は10年国債の利回り(長期金利)に連動する建前となっています。
8月から10月にかけて長期金利が0.47%から0.72%へと0.25ポイント上がっているということは、投資家が日銀の利上げ可能性を警戒しており高い金利でなければ機構債を買ってくれないということを意味します。
しかしフラット35は公的融資であり、金利の急激な高騰時には政策的に住宅ローンの金利の上昇を緩やかにする傾向があります。
そのため、機構債の表面利率は8月から10月にかけて0.15ポイントの上昇に抑えられました。そしてフラット35の上昇幅も0.16ポイントに抑えられています。
さらにフラット35の上昇が抑えられる理由として、政府が子育て世帯を対象としてフラット35の金利引き下げを方針であることもあります。
2023年度にフラット35で住宅を買う人は、子育て世帯であっても金利引き下げにならないため、住宅購入のタイミングによって生じる不公平を和らげるために全体的にフラット35の金利のベースを下げている可能性があるのです。
このように子育て政策が絡んでフラット35の上昇を抑えている状況ですので、これまでと同様にフラット35の上昇幅は抑えられ、1.90%前後になると予想しています。
民間の超長期固定金利の動向
7月の日銀会合後の長期金利の上昇幅は0.3ポイントとなっていますが、民間の30年、35年固定金利の上昇幅には銀行によって差があります。
auじぶん銀行では7月から10月にかけて0.4ポイントの上昇となっており、長期金利の上昇幅を超える上昇となっていますが、りそな銀行は7月から10月にかけて0.25ポイントの上昇としており、あえて金利上昇を抑えています。
固定タイプの金利が長期金利に連動するというのは、あくまで建前であり、便乗値上げ的に金利を上げるケースもあれば、あえて上昇を抑えるケースもあるのです。
フラット35がライバルとなるため、基本的に金利を上げにくい状況にはあると思いますが今後も各民間銀行の営業方針によって上がり幅に差が出てくると見ています。
20年前後の長期固定金利の動向
20年固定は去年までは複数の主要銀行で低金利競争が行われていたのですが、米国の利上げが始まったあたりから20年固定から撤退し、30年や35年固定金利と変わらない水準の金利とする銀行が相次いでいます。
ここ最近は市場の長期金利の動向にあわせて、超長期固定金利タイプと同じ変動幅で推移する傾向が続いています。
そのため、10月から11月にかけては超長期固定金利と同じく銀行の営業方針により上がり幅に差がでてくると見ています。
10年固定金利の動向
10年固定金利は、各民間銀行で主力商品としている金利タイプで、競争によって下がりやすい傾向のある商品です。
目下の長期金利の動向は日銀の政策が最大の取引材料となっていますが、日銀によりYCC政策修正が行われた7月から10月にかけては主要銀行が軒並み10年固定金利を上げており、その上げ幅には銀行によって差がありました。
引き続き住宅ローンに力を入れている銀行については金利が上がるにしても、少し金利上昇が抑えられる可能性も期待できます。
次の日銀の政策修正がいつになるかは不透明ですが、年内は銀行によって対応が分かれる傾向が続くと見ています。
変動金利の動向
変動金利は、政策金利の影響を受けます。植田総裁はYCC政策の修正を行いましたが、前述のように大規模金融緩和の継続を明言しています。
そのため変動金利については基準金利、引き下げ幅ともに横ばいで推移すると予想します。
ただし、直近では2024年の初頭にもマイナス金利解除があるとする市場関係者の声もあり、近い将来の利上げを想定したうえで変動金利を選ぶ必要があると思います。
まとめ~変動金利を選ぶ心構えと情報収集の重要性
千日太郎個人の予想としては、2024年前半の「マイナス金利解除」が濃厚と見ています。ただし、その可能性はまだ5分5分であり、またその方法には多くのオプションが用意されていると見ています。分かりやすい政策金利の引き上げではなく、複合的な方法をとってくる可能性もあるでしょう。
変動金利は政策金利の影響を受けると言われますが、その時に日銀がどのような政策転換を行うかによって、変動金利の上げ幅を決めるのは各銀行の営業判断となります。
当然、わたしたちの行動は後手にまわるのですから、金利が上がりそうだと確定情報を入手してから行動したのでは遅いのです。
基本的には変動金利はいつ上がってもおかしくないという前提で考えるのが後悔の少ない方法だと思います。
変動金利を選ぶ場合には、「金利が上がっても自分は返済を継続できるか?」「どの程度までならば許容できるのか?」こうした判断を、市況を見ながら随時行うことが必要になってくるということです。住宅ローンは良くも悪くも金融商品なのです。
早い段階で一つの金利タイプ、一つの金融機関に決めてしまい、その後の情報収集を怠っていると、割高な金利で住宅ローンを借りざるを得なくなってしまいます。
民間と公的融資、変動と固定など、複数の金利タイプ、金融機関で審査を通しておき、住宅ローンの実行月まではしっかり情報収集するよう努めてください。