植田日銀の政策修正は後ろ倒しで住宅ローンの固定金利タイプは下がる2023年6月の住宅ローン金利を予想
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こんにちは公認会計士の千日太郎です。
日本国債市場では、植田日銀がイールドカーブ・コントロール政策を急いで修正する必要性が低下してきたようです。
前任の黒田日銀が昨年12月に長期金利の許容変動幅を拡大した理由である利回り曲線のゆがみが改善しており、さらに米国の利上げ局面の終了が見込まれることから、長期金利の低下傾向が続いているためです。
これを反映してか、民間銀行の住宅ローンの固定金利タイプも低下傾向となっています。
この記事では、執筆時点で公開されている「金融市場の動向」と千日太郎が公認会計士として培ってきた金融ビジネスに対する知見をもって推理する「銀行の営業方針」から2023年6月のローン金利動向を金利タイプごとに予想します。
※当記事の金利や情報は2023年5月14日時点のものを記載しております。
最新の金利情報は、必ず金融機関等の公式サイトをご確認ください。
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長期金利が再び0.3%台に低下した背景と今後の動向
こちらは2023年2月1日から2023年5月12日までの日本と米国の長期金利の推移です。
昨年12月に黒田日銀が長期金利の許容変動幅を拡大してからは、米国の金利上昇も波及して、日本の長期金利は上限の0.5%に張り付き推移していました。
変化があったのは3月10日の会合で金融緩和政策の継続を決定し、その直後に発生した米シリコンバレーバンクの経営破綻とスイスのクレディ・スイスの経営危機です。金融システムへの不安から一時は0.2%台まで急低下しました。
その後は再び上昇し0.45%を超える水準となりました。この背景にあったのは、植田新総裁の就任後初となる4月27〜28日の会合で政策がタカ派寄りに転換し、それによって国債価格が下がることを見越して儲けるための空売りだと言われています。
これに対して、植田新総裁は4月に金融緩和策の据え置き決め、今後の金融政策については「引き締めが遅れて2%を超えるインフレ率が持続するリスクよりも、拙速な引き締めで2%を実現できなくなるリスクの方が大きい」と発言しました。
さらに、米国では5月2日にファースト・リパブリック・バンクが経営破綻し、米国史上2番目の規模の銀行破綻となりました。
相次ぐ中堅銀行の経営破綻からFRBによる利上げ局面の終了が見込まれる上、植田日銀の変わらぬ緩和継続姿勢と国債の空売り対策もあって海外投資家の日本国債売りは沈静化し、長期金利は低下しています。
年内は日銀の金融緩和政策は続くか?
植田総裁が引き締めに関して安定的な2%の物価上昇目標を掲げている以上は、年内に政策転換する可能性は低いと考えられます。ポイントは「安定的な」という点です。
数か月の経済統計の数値で安定的な物価上昇が達成できたか否かの判断を行うことは難しいでしょう。
「拙速な引き締めで2%を実現できなくなるリスクの方が大きい」という発言はその判断に慎重を期していきたいという本音の現れではないかと見ています。
となると、年内は少なくとも今の金融緩和政策が続くということになります。
前月まではイールドカーブ・コントロール政策から先に手を付けるという予想をしていたのですが、その時期も若干後ろ倒しになっていると考えられます。
前任の黒田日銀が昨年12月に長期金利の許容変動幅を拡大した理由である副作用が改善しており、さらに米国の利上げ局面の終了が見込まれることから、日本の長期金利は直近の5月12日には0.38%台まで低下してきているためです。
長い目で見れば将来的な金融政策の実効性を保つために、植田総裁はどこかでイールドカーブ・コントロール政策を見直す必要があると思います。
しかし、今のところは指値オペをせずとも本来の金利水準を維持しているわけですから、優先順位は少し下がったと見てもよいのではないかと思います。
銀行の営業方針
一方で、住宅ローンを取り扱う金融機関としては、依然として植田日銀による利上げの可能性を捨てていないでしょう。
金融機関としては金利が上がった方が儲かるので、どうしても利上げ期待のバイアスがかかるのです。
固定タイプはその固定期間にわたっては金利を固定するものです。そのため、将来的に日銀が利上げして変動金利を上げられる見込みが高い場合には固定タイプの住宅ローン金利は高くなります。
4月に公開した5月の金利予想では、固定タイプに見切りをつけて、変動金利に顧客を誘導しようとする銀行も出てくると予想したのですが、まさにそれが的中しました。
長期金利の低下を反映して固定タイプの金利を下げる銀行がある一方で、一部のネット銀行は固定タイプの住宅ローン金利を上げて、変動金利をさらに下げるという対応をとっています。
では、固定タイプの金利を下げている銀行はどのような思惑をもっているのでしょうか?
銀行の人は「住宅ローンを借りるお客さまのために金利を下げています」と言うかもしれませんが、それをそのまま信じるほど私は純な人間ではありません。
3月から政府が子育て世帯を対象としてフラット35の金利引き下げを行う議論をスタートしたことが関係していると思います。
既にフラット35の金利引き下げ制度の中には「子育て支援」というカテゴリーが設けられているのですが、おそらくこれが拡充されることになります。
この金利引き下げには所得制限が設けないという方向で議論されているのです。つまり、子育てする30代を中心とする高所得の人たちも対象となる可能性があるのです。
住宅ローンはそもそも低金利であるため、単独では銀行の利益に貢献しにくいのですが、属性の高い顧客を囲い込むための手段という側面が強いのです。
子育て世帯を対象としてフラット35の金利を下げる議論は民間銀行の固定金利を下げる方向にも波及していると考えられます。
金利タイプ別2023年6月の金利予想
では、住宅ローンの各金利タイプ別に2023年6月の金利がどうなっていくのか予想していきます。
5月14日までの公開情報を前提とした予想になります。
【金利タイプ別】
2023年6月の金利予想
公的融資フラット35の金利動向
公的融資の超長期固定金利であるフラット35(買取型)は2023年に入ってから長期金利の上昇に伴い、大幅な上昇となりましたが4月に再び下がってきています。
下のグラフはフラット35の金利と長期金利を2023年2月から2023年5月までとったものです。
フラット35の金利は前月の中旬に決まります。
その時点に青い棒グラフのフラット35(買取型)金利を立てています。
(機構債発表日) | 2月金利 (2023年1月25日) | 3月金利 (2023年2月16日) | 4月金利 (2023年3月17日) | 5月金利 (2023年4月20日) |
---|---|---|---|---|
長期金利 | 0.41% | 0.50% | 0.30% | 0.47% |
機構債の 表面利率 | 1.01% | 1.09% | 0.95% | 1.04% |
フラット35 | 1.88% | 1.96% | 1.76% | 1.83% |
フラット35は下図のように独立行政法人である住宅金融支援機構が民間金融機関から債権を買い取って証券化し、機関投資家に債券市場を通じて機構債という形で販売するという仕組みになっています。
この機構債は毎月20日前後に表面利率を発表し募集します。投資家は機構債を安全資産という考えで購入しますので、その表面利率は10年国債の利回り(長期金利)に連動する建前となっています。
2月から4月のフラット35の金利推移は、おおむね長期金利の推移と連動しています。
3月から4月には米欧で発生した相次ぐ銀行の経営破綻よって長期金利が下がり、フラット35の金利も下がりました。
しかし、4月から5月には長期金利の大幅な上昇に対してフラット35の金利上昇は抑えられました。
これは住宅金融支援機構が政府に代わって公共的な事業を行うために設立された独立行政法人であり、国民の円滑な住宅金融を目的とするからです。
急激な金利上昇局面では、利用者が困ってしまわないように住宅ローンの金利上昇幅を緩やかにする対応を行うのです。
5月に入ってからは一時的に急上昇した金利が低下してきていることから、6月もおおむね横ばいで1.7%~1.8%程度の水準と予想しています。
民間の超長期固定金利の動向
前の5月の金利予想では、民間の全期間固定金利は公的融資であるフラット35がライバルとして存在するため超長期固定金利に力を入れている銀行は上げない傾向があると予想しました。
その予想どおりフラット35は上昇したのに対して、りそな銀行や三菱UFJ銀行は35年固定金利を下げています。
しばらくはその傾向が続くと考えており、6月の民間の超長期固定金利は横ばいかフラット35を意識した低下傾向をみせると予想しています。
20年前後の長期固定金利の動向
20年固定は去年までは複数の主要銀行で低金利競争が行われていたのですが、米国の利上げが始まったあたりから20年固定から撤退する銀行が相次ぎました。
長期金利の低下に伴い下げる可能性もありますが、後述する30年以上の超長期固定金利の方が低金利です。
金利予想としては、目立った動きはなく横ばいで推移すると予想しています。
10年固定金利の動向
10年固定金利は、各民間銀行で主力商品としている金利タイプで、競争によって下がりやすい傾向のある商品です。
直近では米欧発の金融不安から長期金利が急低下し3月と4月には、変動金利をキャンペーンで下げて変動金利へ誘導しようとしている銀行を除き、多くの主要銀行が10年固定金利を下げています。
変動金利より高い水準ではあるものの、このまま低金利が続けばさらに下がる可能性があると見ています。
変動金利の動向
変動金利は、政策金利の影響を受けます。民間銀行の観測としては、将来的には植田日銀による利上げ可能性があると見ています。
しかし植田新総裁は一貫して金融緩和の継続を明言しており、米国では金融システムへの不安もあってFRBによる利上げ局面の終了が見込まれていることから、現時点では変動金利を上げられる要素がありません。
そのため変動金利については基準金利、引き下げ幅ともに横ばいで推移するでしょう。
まとめ~アメリカが利下げを開始する時期は近い?
アメリカの金融政策を決める5月のFOMCでは市場の予想通りに0.25%の利上げを行い、政策金利を5.25%(上限)まで引き上げられました。
しかし声明文では、利上げを継続する方針が、以前よりも弱められる方向で書き換えられています。
さらに、FRBの政策判断の基準は、3月から5月までの短期間に相次ぐ4つの中堅銀行の破綻で大きく変わってきています。
銀行の貸し渋りによって経済活動を落ち込ませるリスクを相当配慮せざるをえなくなっているのです。
つまり、意外と早い段階でFRBが利下げに政策転換する可能性もあり、これが日米の長期金利を押し下げている主な要因だと見ています。
アメリカの動向は確実に日本に波及しますが、それがどういう形で表れるのか?様々な要因が影響するため、あらかじめ予想することは困難です。当年度中は、先の読みにくい環境が続きます。
なお、当記事は現時点で入手可能な公開情報を参考にして、千日太郎個人の考える今後の予想ですから、その後の状況変化によって予想が変化していくものですし、そもそも私の予想が外れる可能性も大いにあり得ることです。
早い段階で一つの金利タイプ、一つの金融機関に決めてしまい、その後の情報収集を怠っていると、割高な金利で住宅ローンを借りざるを得なくなってしまいます。
複数の金利タイプ、金融機関で審査を通しておき、すくなくとも住宅ローンの実行月まではしっかり情報収集するよう努めてください。