日銀YCC政策再修正で住宅ローン金利は今後も上がるのか?専門家が2023年12月の住宅ローン金利を予想
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こんにちは公認会計士の千日太郎です。
10月の日銀会合ではYCC政策が再修正され、7月に引き上げた長期金利の上限1%を超えることを容認することを決めました。
わずか3カ月前に決めた上限を再度引き上げた形になっており、長期金利は一時0.95%を超える水準まで急上昇したのですが、再び会合前の水準まで下がってきています。
投資家の間ではいよいよ利上げ時期が近いとの警戒感を強めていますが、日銀の植田総裁は大規模な金融緩和策からの脱却を慎重に進め、債券市場に大きな変動を引き起こさないようにしたいと述べ、また、2%の物価目標を持続的に達成する(≒利上げへ舵を切る)カギとなるのは「賃金と物価の好循環」を確認できるかにあるとの認識も示しています。
こちらは11月から12月にかけての主要銀行の住宅ローン金利予想となっています。
詳しくは以下の記事で解説していますので、ぜひ読んでみてください。
金利タイプ | 11月参考(※) | 12月予想 |
---|---|---|
フラット35 (買取型) | 1.96%~ | 横ばい又は下がる可能性もある |
民間の長期固定金利 | 1.60%台~ | 上昇傾向だが銀行により対応が分かれる |
20年固定金利 | 1.80%台~ | 上昇傾向だが銀行により対応が分かれる |
10年固定金利 | 1.00%台~ | フラット35の動向によっては下がる可能性もある |
変動金利 | 0.30%台~ | 横ばい |
※11月の金利については参考として主要銀行の金利から、小数点第2位を切り捨て表示しています。
この記事では、執筆時点で公開されている「金融市場の動向」と千日太郎が公認会計士として培ってきた金融ビジネスに対する知見をもって推理する「銀行の営業方針」から2023年12月の住宅ローンの金利動向を金利タイプごとに予想します。
※当記事の金利や情報は2023年11月12日時点のものを記載しております。
最新の金利情報は、必ず金融機関等の公式サイトをご確認ください。
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長期金利は右肩上がり
こちらは2023年7月3日から2023年11月8日までの日本の長期金利と日経平均株価の推移をグラフにしたものです。
7月27日には長期金利が大幅に上昇しています。日銀の金融政策決定会合で、YCC(イールドカーブ・コントロール)政策の運用が修正されたことが原因です。
日銀は長期金利の上限を0.5%としていたのですが、今後は0.5%程度を目途としつつこれを超えることを容認し、1%を新たな上限とする方針転換を行いました。
このYCC政策の修正については、単に上限を1%に引き上げるのではなく、従来の0.5%の上限を「上限のめど」として超えることは容認するというものです。
会合後の植田総裁への記者会見では1%に上がることは想定しておらず、念のためのキャップとして設定すると答えていました。
そして、その後も長期金利は上昇を続け、10月31日と11月1日の日銀会合では3月前の7月に長期金利の上限とした1%を「上限のめど」に修正し、1%超の金利上昇を一定程度、容認することを決めました。
わずか3カ月で日銀がYCC政策を修正してきたことの波紋は大きく長期金利はさらに上がり、一時は0.95%を超える水準まで上昇しました。
オレンジの折れ線グラフの長期金利が右肩上がりに上昇を続けているのに対し、黄色の折れ線グラフの日経平均株価の方は右肩下がりに下がってきています。
こうした想定外の金利上昇を懸念する投資家によってリスク資産である株が売られ、安全資産である債券が買われているということです。
米国の金利上昇が日銀のYCC政策再修正を促した
日銀の動向が日本の長期金利に影響していることは間違いないですが、米国の長期金利が日本に与えている影響もまた大きくなっています。
こちらは2023年7月3日から2023年11月8日までの日本と米国の長期金利の推移です。
黄色の折れ線グラフが日本の長期金利、オレンジが米国の長期金利です。ベースとしては日本の0%が米国では3.5%となっていますので、日米の金利差は約3.5%であるということになります。
さらに日本よりも米国の方がダイナミックに動いています。
9月21日には米連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利見通しが示され、高金利政策が続くとの観測が台頭したことで、長期金利が急上昇し一時期は5%に達する水準となりました。
この米国の金利上昇が日本に波及して長期金利が上昇し、日銀がYCC政策を再修正して上限を引き上げざるを得ない状況を作ったのです。
日銀の植田総裁は会合後の記者会見で、率直に7月の見込みが外れたことを認めています。こうした発言は日銀総裁としては異例のものですが、学者出身の総裁としては認めざるを得なかったのでしょう。
日本の長期金利が1%を超えず、再び下がってきた背景には米国の長期金利が低下してきたことが波及したものです。
米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は11月9日、インフレ抑制に向けて「十分金融引き締め的なスタンスを達成できたと確信しているわけではない」と述べ、必要であれば追加利上げに動く考えを改めて示しています。
状況によっては今後も再び米長期金利が急上昇して日本に波及する可能性は否定できません。
銀行の営業方針~メガバンクが定期預金の金利を横並びで上げた思惑
長期金利の上昇に伴い、主要銀行は8月から11月まで連続して固定タイプの住宅ローン金利を軒並み上げてきていますが、変動金利は日銀の政策金利によるため低金利のまま横ばいで推移してきました。
しかし民間銀行もいよいよ変動金利を上げるための根回しをスタートしています。まず三菱UFJ銀行が11月1日に5年以上の期間の定期預金の金利引き上げを発表しました。
10年で0.2%と、変更前の0.002%に比べて100倍の水準であると報じられています。
続いて三井住友銀行、みずほ銀行が10年の定期預金金利を現在の0.002%から0.2%に引き上げることを決めました。
3大メガバンクが足並みをそろえて定期預金の金利を上げた背景には、変動金利の上昇にあたっても足並みをそろえようという意思の表れではないかと見ています。
これまでゼロ金利であった預金に金利が付くようになりました。その上げ幅はほぼゼロ→0.2%ですから、0.2ポイントの上昇です。
報道では上げ幅ではなく、より人目をひく100倍という表現がされていますが、金利に関してはパーセンテージでの上げ幅で捉えるのが妥当でしょう。
全ての銀行が日銀の利上げを熱望している状況下で、コストとなる預金利率を0.2ポイント上昇させたなら、収益である貸出金利の上昇幅の目安としても意味を持つことになるわけです。
来るべき日銀の利上げに向けて、変動金利の上げ幅をお互い確認しあっているように私には見えます。基本的には変動金利はいつ上がってもおかしくないという前提で考えるべきでしょう。
私は主要銀行の金利推移を分析し、毎月お勧めの住宅ローン金利タイプを紹介していますので、下記の記事も参考にしてください。
金利タイプ別2023年12月の金利予想
では、住宅ローンの各金利タイプ別に2023年12月の金利がどうなっていくのか予想していきます。
11月12日までの公開情報を前提とした予想になります。
【金利タイプ別】
2023年12月の金利予想
公的融資フラット35の金利動向
下のグラフは9月から11月までのフラット35(買取型)の金利と長期金利の推移です。
オレンジの折れ線グラフは長期金利の推移であり、黄色の棒グラフがその機構債の条件公開のタイミングで決まったフラット35(買取型)の金利です。
(機構債発表日) | 9月金利 (2023年8月17日) | 10月金利 (2023年9月21日) | 11月金利 (2023年10月20日) |
---|---|---|---|
長期金利 | 0.62% | 0.72% | 0.84% |
機構債の 表面利率 | 1.02% | 1.08% | 1.16% |
フラット35 | 1.80% | 1.88% | 1.96% |
フラット35は下図のように独立行政法人である住宅金融支援機構が民間金融機関から債権を買い取って証券化し、機関投資家に債券市場を通じて機構債という形で販売するという仕組みになっています。
この機構債は毎月20日前後に表面利率を発表し募集します。投資家は機構債を安全資産という考えで購入しますので、その表面利率は10年国債の利回り(長期金利)に連動する建前となっています。
9月から11月にかけて長期金利が0.62%から0.84%へと0.22ポイント上がっているということは、投資家が日銀の利上げ可能性を警戒しており高い金利でなければ機構債を買ってくれないということを意味します。
しかしフラット35は公的融資であり、金利の急激な高騰時には政策的に住宅ローンの金利の上昇を緩やかにする傾向があります。
そのため、機構債の表面利率は9月から11月にかけて0.14ポイントの上昇に抑えられました。そしてフラット35の上昇幅も0.16ポイントに抑えられています。
さらにフラット35の上昇が抑えられる理由として、政府が子育て世帯を対象としてフラット35の金利引き下げる方針であることもあります。
直近ではその財源を健康保険料とする案が有力視されているようです。概ね来年の3月を目途に開始が予定されているので、年内はフラット35の上昇が抑えられることが期待できます。
このように子育て政策が絡んでフラット35の上昇を抑えている状況です。
さらに長期金利は上昇する前の水準まで下がってきているので、フラット35の上昇は抑えられ1.96%の横ばい又は下がる可能性もあると予想しています。
民間の超長期固定金利の動向
長期金利は9月末が0.77%、10月末が0.95%で上昇幅は0.18ポイントとなっていますが、民間の30年、35年固定金利の上昇幅には銀行によって差があります。
あまり長期の固定金利に力を入れていないauじぶん銀行では9月の2.21%から10月の2.42%にかけて0.21ポイントの上昇となっており、長期金利の上昇幅を超える上昇となり金利水準も倍以上です。
これに対して35年固定で最低金利のりそな銀行は9月の1.485%から10月の1.615%にかけて0.13ポイントの上昇としており、あえて金利上昇を抑えています。
固定タイプの金利が長期金利に連動するというのは、あくまで建前であり、便乗値上げ的に金利を上げるケースもあれば、あえて上昇を抑えるケースもあるのです。
フラット35がライバルとなるため、基本的に金利を上げにくい状況にはあると思いますが今後も各民間銀行の営業方針によって対応に差が出てくると見ています。
特に固定に力を入れている銀行はフラット35の金利動向の影響を受けるでしょう。
20年前後の長期固定金利の動向
20年固定は去年までは複数の主要銀行で低金利競争が行われていたのですが、米国の利上げが始まったあたりから20年固定から撤退し、30年や35年固定金利と変わらない水準の金利とする銀行が相次いでいます。
ここ最近は市場の長期金利の動向にあわせて、超長期固定金利タイプと同じ変動幅で推移する傾向が続いています。
そのため、11月から12月にかけては超長期固定金利と同じく銀行の営業方針により対応に差がでてくると見ています。
10年固定金利の動向
10年固定金利は、各民間銀行で主力商品としている金利タイプで、競争によって下がりやすい傾向のある商品です。
長期金利が急上昇した9月から10月にかけては、10年固定金利を上げた銀行が多数派ですが、ソニー銀行が唯一金利を下げていますし、最低金利の三菱UFJ銀行は長期金利の上昇幅0.13ポイントに対して10年固定金利の上昇幅は0.1ポイントに抑えています。
引き続き住宅ローンに力を入れている銀行については金利上昇が抑えられる可能が高く、フラット35が下がれば10年固定も下がることが期待できます。
今後も銀行によって対応が分かれる傾向が続くと見ています。
変動金利の動向
変動金利は、政策金利の影響を受けます。植田総裁はYCC政策の再修正を行いましたが、前述のように大規模金融緩和の継続を明言しています。
そのため変動金利については基準金利、引き下げ幅ともに横ばいで推移すると予想します。
ただし、直近では2024年の前半でマイナス金利解除があるとする市場関係者の声もあります。
また前述したように3大メガバンクが定期金利を横並びで引き上げたことを鑑みれば、最短では2024年前半での利上げを想定したうえで変動金利を選ぶ必要があると思います。
まとめ~変動金利を選ぶ心構えと情報収集の重要性
千日太郎個人の予想としては、2024年前半の「マイナス金利解除」が濃厚と見ています。
日銀が11月9日公表した10月会合の「主な意見」には、「最大限の金融緩和からの調整」や「円滑に金融正常化を進める」など出口を意識した発言が並んでいます。
基本的には変動金利はいつ上がってもおかしくないという前提で考えるのが後悔の少ない方法だと思います。
変動金利を選ぶ場合には、「金利が上がっても自分は返済を継続できるか?」「どの程度までならば許容できるのか?」こうした判断を、市況を見ながら随時行うことが必要になってくるということです。住宅ローンは良くも悪くも金融商品なのです。
早い段階で一つの金利タイプ、一つの金融機関に決めてしまい、その後の情報収集を怠っていると、割高な金利で住宅ローンを借りざるを得なくなってしまいます。
民間と公的融資、変動と固定など、複数の金利タイプ、金融機関で審査を通しておき、住宅ローンの実行月まではしっかり情報収集するよう努めてください。