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働く=お金を稼ぐ、ではない。金融教育家に聞く、これからの時代に大切な「お金」との向き合い方

最終更新日:

田内学さん
証券投資の調査リリース
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人前でお金の話をするのはタブーだと思っていませんか?

高校での金融教育が義務化されたり、新NISAがスタートしたりするなど、ここ数年の間に「お金」について若いうちから考える機会は増えてきています。しかしその一方で、大人世代には依然として「人前でお金の話はするものではない」という空気が色濃く残っているのも事実。特に子どもを持つ方の場合、自分の子どもにお金の話をどこまですればいいのか、悩んだことのある人も少なくないのではないでしょうか。

ゴールドマン・サックスでの勤務を経て現在は金融教育に関する活動を行う田内学さんは、著書『きみのお金は誰のため』(東洋経済新報社)、『お金のむこうに人がいる』(ダイヤモンド社)などを通じ、お金を「社会と人との関係」として捉え直すことを提言されています。

私たちはこれからの時代、「お金」をどのように捉え、「お金の話」とどのように向き合っていけばよいのでしょうか。 そのヒントを田内さんに伺いました。

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「財布の中」の話ばかりしてしまうことの問題点

──私たち大人世代の間には、「お金の話は大っぴらに人前でするものではない」という意識が根付いているように感じます。そもそも、お金の話はなぜタブー視されがちなのでしょうか?

田内学さん(以下、田内):一説としては、江戸時代に幕府が士農工商の中で唯一大金を持つ商人を「身分の低い、卑しいもの」だとすることで他の民衆の不満を抑え、謀反を防いだことが背景にあると言われていますね。

そこから150年以上たった現在においても、「質素倹約こそ美徳である」という価値観はまだ根強く残っているのかもしれません。

──一方で2022年からは高校の家庭科で「金融教育」が必修になるなど、今の子ども世代は比較的、早い段階から「お金とどのように向き合えばいいのか」を考える機会を持っていますよね。自分の子どもにどこまでお金の話をすればいいのか、悩んでいる親も多いのではないかと思います。

田内:そうですね。中には高校で金融教育が始まったと聞いて、「子どもたちは資産運用について学んでいくのだろうから、自分たちも知識を付けなくては」と考えている方も少なくないのではないでしょうか。

数年前にいわゆる「老後2000万円問題」が話題になり、2024年からは新NISA制度がスタートしたこともあって、「将来のために貯蓄をしなければならない、稼いだお金を投資に回さなければいけない」という焦燥感に駆られている人も多いかもしれません。

ただ、本来の金融教育は家計管理の方法や、お金という道具をどのように使えば自分も社会も豊かになるかという考え方を知るもののはずです。ところが、投資や資産形成にまつわる話ばかりがどうしても注目されてしまう。いわば個人のお金……「財布の中」をどう増やすか? に向いたものばかりが取り上げられがちです。

僕は、金融教育というもののイメージが、自分の「財布の中」の話に偏り過ぎている現状はよくないと思っているんです。

田内学さん


──将来が不安だと、自分の「財布の中」のことばかりが気になってしまう気持ちもよく分かるのですが……その問題点はどこにあるのでしょうか?

田内:自分の財布の中だけを見ていると、「お金が身の回りの問題を解決している」といつしか信じて疑わなくなり、お金の向こうにいる「働く人」の存在が見えなくなってしまうことです。

50年ほど前までの日本では家族や地域のつながりが強く、例えば冠婚葬祭の準備や農作業など、困ったときに助け合うことのできる仲間が周囲にいました。言い換えれば、価値のある「タダの労働」を身近に感じる機会が多かったわけです。

けれど、それから数十年で社会が大きく変化し、家庭や地域でのタダの労働は激減し、多くの労働をお金で買うようになったことで、「お金さえあればなんでも解決できる」と考える人が増えていった。労働に価格がついたとしても、「働く人」の存在なしには社会は成り立たないはずなのに、です。

先ほどの「老後2000万円問題」の根っこにあるのは、将来「働く人」が減ること。「働く人」が減れば、私たちの生活に必要なモノやサービスも不足します。

このままだと、例えば十分な医療サービスを受けられなくなる未来もやってくるのに、財布の中だけをみていると、そのことに気づきません。少ない人数で社会が回るような技術などが発達しないと、社会全体が沈んでいくことになりかねません。

「財布の中」だけに目を向けるのではなく、財布の外……つまり社会に目をむけることが非常に大事だと思うんです。

子どもと「お金の話」をする上で親世代が意識すべきこと

──子どもには、そのようなお金にまつわる考え方を普段からどう伝えればいいのでしょうか。例えば子どもにおこづかいを渡す家庭も増えてくると思うのですが、「どうしてお金が必要なの?」「お金はどうして大事なの?」という素朴な疑問に対して、どう答えるといいのか迷いそうです。

田内:先ほどのお話と通じますが、お金自体が大事、価値がある……という回答ではなく、社会と人との関わりの中で「お金」という道具を使っている、ということが伝わるといいと思います。

自分が困ったときに、仲間に助けを求めることはしやすいかもしれません。ですが、お金というチケットがあることで、知らない人同士でも助け合うことができる。そしてここでも、お金の向こう側には必ず「働く人」がいるんですよね。

学校などで講演をすることがあると、先生から「これからの社会で生きていくために、子どもたちが身につけた方がいい資格とかお金の知識とかありますか」とよく聞かれるのですが、僕はいつも「家に帰って、何をしたら親が喜ぶのかをまずは考えてもらうようにしてください」と答えています。

当たり前のことに聞こえるかもしれませんが、身近な人の役に立てる「役割」を見つけることが何より大事なんです。

──役割、ですか。

田内:例えば、アメリカの子どもたちは夏になるとレモネードを売ることで、ビジネスや社会の仕組みを知るという有名な話があります。アメリカの子どもたちはそういった経験を通して、お金を稼ぐことの本質が「人の役に立つ」ことにあると知ると同時に、何をすればより人の役に立てるのかを考えるわけです。

それと日本では、子どもがもらったお年玉を使わせずに預金に回そうとアドバイスする親も多いと思うのですが、お金とは何か、というのは実際に使ってみないことには分からないですから、ときには失敗しながら学んでもらうことも大切だと思います。

──とはいえ、子どもがまだ小さい場合など、完全に自由にお金を使わせるのは不安という方も多そうです。

田内:僕の著書『きみのお金は誰のため』に「サクマドル」という家の中だけで使える紙幣を手作りし、家庭内で「社会でのお金の流れ」をイメージさせる話が出てくるのですが、それを家庭で実践していると教えてくれた読者の方がいました。不安な方は、こうしたところから始めてみてもいいかもしれません

家庭内でオリジナルの通貨を作ってみると、紙幣そのものに価値があるわけではないことや、家事やお手伝いといった「人の役に立つ労働」によって初めてお金を手に入れられることが自然と伝わるかもしれませんね。

『きみのお金は誰のため』(東洋経済新報社)

現代の「お金の不安や疑問」を小説形式で分かりやすく理解できる『きみのお金は誰のため』(東洋経済新報社)では、主人公・中学2年生の佐久間優斗がひょんなことから投資銀行で働く七海(ななみ)と出会い、ボスと呼ばれる謎の大富豪の屋敷でお金に関する謎を解いていく。作中では、トランプを用いた「サクマドル」という家庭用紙幣を用意し「家庭内で税の導入(スマホ利用に5サクマドルが必要)されたら?」「家事(お手伝い)の給料としてサクマドルが支払われたら?」といったシチュエーションをボスが投げかけていくことで、お金がどう循環していくかを佐久間に説明していく様子が描かれている

──働いてお金を稼ぐ行為は、結果として誰かを助けていることになる、というのを実感しやすそうですね。

田内:そうですね。特に現代では働く=お金を稼ぐ、というふうに捉えられていることが多いのではないでしょうか。大人世代も、働くことの本質には「誰かの役に立つ」があると考えてみてもらえたらなと思います。

それから、子どもはやはり親の言動や行動を見て育ちますから、親自身のお金に対する考え方や使い方を日頃から伝えておくのもひとつの方法だと思います。

例えば、家族でおいしいお寿司を食べられるのはなぜかを子どもに説明するときに、「お父さんがたくさん稼いでるからだよ」と伝えるのと、「漁師さんや市場の人たちが働いてくれるおかげで、近くの漁港においしい魚が水揚げされるからだよ」という流れを説明するのとでは、子どもの受け取り方も大きく変わりますよね。

自分の生活が今豊かなのは親にお金があるからではなく、いろいろな場所で働いている人たちがいるからだということを伝えられると、社会の中で自分の役割を探そうという意識も子どもに芽生えるのではないかと思います。

一人ひとりが「社会での役割」を考えることが大事

──お金について、社会の中で「働く人」を中心に捉えられている田内さんのお話はとても本質的だと感じます。一方で、生活していく上ではどうしても手元のお金を増やすことを第一に考えてしまう人の不安感も分かるんです。

田内:生活のためには手元のお金が大切、というのはもちろんその通りだと思います。

ただ、今の日本社会はほんのわずかなリソースを奪い合う椅子取りゲームのような状態になっていて、受験や就職の競争も熾烈になり続けていますから、その椅子をどうにか奪いにいこうと考えてもしんどくなるだけです。

むしろ考えるべきは、椅子取りゲームにおける「椅子」をどう増やすか。つまり、自分の「やりたいこと」を社会の中で役立つこととどう結びつけ、それに協力してくれる人を見つけるかです。

──どういうことでしょうか?

田内:例えば、こんな話を聞いたことがあります。美術大学に通う学生の中には、作品の制作のためにかかるお金をアルバイトで必死に貯めていて、本業である作品制作に使う時間を削っている人も多いそうです。でも、もし制作を応援してくれる人を見つけられれば、クラウドファンディングでお金を集めることもできるわけです。

「金融」というのは文字通り、お金を融通し合って社会が発展していくことを目指すための手段ですから、社会のためになる活動にはお金を融通してもらうという手段があることをもっと多くの人が知った方がいい。

自分の好きなことはお金を貯めるまで実現できない、と悩んでいる人がいるなら、まずは自分の好きなことがどう世の中の人の役に立つかを考えて、お金を集める方法を検討してみるのがいいと思います。

こういった話をすると「それはアーティストなど、限られた分野の人たちだからできることだ」と言う人がいるのですが、決してそうではありません

会社員であっても、会社を通して自分が社会の中で役割を持つにはどうすればよいかは考えられますし、過疎化が進む地域などでも、その場所で自分が何をできるかを考えることはできますよね。

田内学さん

──なるほど。ただやはり、他の人と違うことをするのは怖いという気持ちもあります。

田内:不安に思う気持ちも分かりますが、日本においても「お金さえあればなんとかなる」という状況はすでに変わりつつありますし、今後よりいっそう変化していくはずです。

スマートフォンの中のアプリケーションなどの多くはもうほとんどが海外製ですよね。生活を豊かにしてくれるようなサービスの提供をこのまま海外に求め続けると必然的に円安が進み、物価高にもなっていきます。

特に介護や医療の現場では働き手が足りていませんから、今後は施設に入るのにも何十人待ち、という状況が続くかもしれません。

経済大国だった頃の日本は、国が会社を守ってくれていましたし、日本においてはこれまで、会社は基本的に年功序列・終身雇用で社員を守ってくれる存在でした。けれど、今の日本には会社を守る体力はないでしょう。

一人ひとりが、会社という箱を通して、社会に対してどんな役割を果たせるのかを考えないといけない時代になっていく。世界中を見渡せば、そちらの方が当たり前の社会で、これまで国が会社を守ってくれていたことが特別だったのだと思います。

──そう聞くと、子どもたちの世代のために、大人世代もお金に対する向き合い方を改めて考え直さなければ、と思いますね。

田内:さきほど「親は子どもの行動を見てお金の使い方を学ぶ」という話もしましたが、身近な人たちに影響を受けるのは大人も同じです。

ですから、ときどきは新しい価値観に触れる機会を意識して設けることが大切だと思います。

書店に足を運んで本を探すことも、その一つの方法です。本を通じて自分とは違う価値観を知ったり、そこでインプットした知識を子どもや周囲の人たちに伝えていくことが、僕たちがお金との向き合い方を徐々に捉え直していくうえでのよいきっかけになるのではないかと思います。

田内学さん

取材・文:生湯葉シホ
撮影:関口佳代
編集:はてな編集部

お話を伺った方

田内学さん

田内学さん

1978年生まれ。東京大学入学後、プログラミングにはまり、国際大学対抗プログラミングコンテストアジア大会入賞。同大学院情報理工学系研究科修士課程修了。2003年ゴールドマン・サックス証券株式会社入社。以後16年間、日本国債、円金利デリバティブ、長期為替などのトレーディングに従事。日銀による金利指標改革にも携わる。2019年退職。現在は子育てのかたわら、中高生への金融教育に関する活動を行っている。著書に『お金のむこうに人がいる』等。2023年に上梓した『きみのお金は誰のため』は大人も子どもも読んでおくべき経済教養小説として話題を集める。

X(旧Twitter):https://twitter.com/mnbtauchi
note:https://note.com/mnbtauchi/

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