コラム

2023/03/23

【創造性の正体を探る】愛されるブランドづくりで創造性の高いビジネスを。「引越し侍」のブランド戦略から見る「創造性」

【創造性の正体を探る】愛されるブランドづくりで創造性の高いビジネスを。「引越し侍」のブランド戦略から見る「創造性」

2022年9月に“Ateam Purpose”の「Creativity × Techで、世の中をもっと便利に、もっと楽しくすること」を発表しました。改めて「創造性の高いビジネス」に取り組むにあたり、エイチームの創造性の正体を探るべく「ブランドづくり」について考えます。今回は、「引越し侍」「ハナユメ」のブランディングに関わってきたお二人の対談インタビューをご紹介します。

森下真由子さん エイチーム 社長室 人事企画グループ マネージャー

2010年にエイチームへ新卒入社。ブライダル事業や引越し事業など、複数の事業部門において、企画営業・宣伝・広報 を経験し、2022年1月に発足した社会的意義検討プロジェクトのリーダーを務める。2022年7月より、社長室 人事企画グループへ異動。(写真左)
“Ateam Purpose” を発表!「Creativity × Techで、世の中をもっと便利に、もっと楽しくすること」に込めた想い

鈴木貴大さん エイチームライフデザイン ブランド戦略部 マネージャー

2008年にエイチームへ新卒入社。ライフスタイルサポート事業を中心に約15年間、リスティングやSEOなどのWebマーケティング、広告施策、ブランディングなどの業務に従事。「引越し侍」は5年、「サイマ」は1年、「ハナユメ」は7年。幅広い分野でマーケティング施策全般を担当。(写真右)

「引越し侍」「ハナユメ」をはじめ、多くのブランドを手がけるエイチーム

森下:
エイチームは、「引越し侍」や「ハナユメ」など、これまで多くのお客さまに愛されるブランドを手がけてきました。代表の林社長は昨年9月に策定した“Ateam Purpose”に関する対談インタビュー記事において、創造性がエイチームの強みの源泉であり、創造性をもってサービスをつくり価値を生み出した結果としてブランドが形成されるとも語っていました。

今回のインタビューでは、「引越し侍」のブランド立ち上げや「ハナユメ」のリブランディングを手がけたエイチームライフデザイン ブランド戦略グループのマネージャーの鈴木貴大さんにお話しを聞きます。私自身、「ハナユメ」の前身である「すぐ婚navi」の企画営業、そして「引越し侍」のマーケティング担当として長年ブランディングに携わってきました。エイチームのブランドに関する取り組みを振り返りながら、“Ateam Purpose”の実現に向けた今後の展望などもお話しできればと思います。

「引越し侍」のブランド戦略は、「ブランドコンセプト」「インパクトある広告クリエイティブ」「キャラクターの活用」

森下:
鈴木さんは、「引越し侍」の立ち上げからブランディングに関われていたんですか?

鈴木:
「引越し侍」の前身であるエイチーム初の比較サイト「引越し価格ガイド」は2006年6月にリリースされました。私は2008年の新卒入社で、入社間もなく「引越し価格ガイド」を担当しました。ちょうど、リスティング広告などのWeb広告のみのマーケティング施策だけでは、将来的な売上・利益、ひいてはサービスの持続的な成長は難しいため、テレビCMなどのマスプロモーションなどにもチャレンジしよう、そんな時でした。また、「引越し価格ガイド」ではなく、もっと多くの人に覚えてもらいやすく、親しみがある名前がいいよね、どのようなサービス名称にしようか、そうした話をしていました。

森下:
「引越し侍」は、今では利用者数・提携社数で業界No.1、ブランド認知度も60%超を誇り、とても多くの方々にご利用いただいているサービスです。この「引越し侍」のブランドの基礎をつくられたんですね。

鈴木:
今でこそ、ブランドに関する経験年数が長くなり、私なりに「ブランドとは」と思うところはありますが、強い意思をもって「ブランドをつくっていこう」という自覚が芽生えたのはここ最近になってからのことです。

もともと、SEOやリスティング広告などのWebマーケティング業務の経験が長く、CPA(※)で語るマーケティング活動が中心だったため、長期軸のブランディングという概念や思考は、最初の頃はなかなか理解できませんでした。
※CPA:Cost Per Acquisition。1件のコンバージョンを獲得するのにかかった広告コスト(成果単価)

しかし、当時の「引越し侍」の事業責任者が、長期的なブランディングに徹底的にこだわっていたこともあり、試行錯誤しながらも、メンバーと一緒に様々な取り組みを企画・検討し、実践しながら、少しずつ成功体験と手応えを感じていったような気もします。時間が経過した今になってブランディングの意味・意義、効果についてだいぶ語れるようになったと思います。

森下:
「引越し侍」と言えば、ユニークでインパクトのある広告クリエイティブが印象的です。私も「引越し侍」のマーケティングを担当していた頃、どのようにして消費者の記憶に残るかという点で、四苦八苦しながらも企画を検討していました。「引越し侍」のブランドづくりの全体像を教えてもらえますか?

鈴木:
「引越し侍」のブランドづくりは、主に「ブランドコンセプト」「インパクトある広告クリエイティブ」「キャラクターの活用」が挙げられます。

まず、ブランドコンセプトやサービス名については、覚えやすく、親しみやすい名前、頼りになる・安心感がある存在として「引越し侍」と名付けました。当時の比較サイトのサービス名の勝ちパターンは、当たり障りなく機能の特徴を伝えられる「〇〇ガイド」「〇〇ナビ」ばかりでした。そしてリスティング広告でいくつかのパターンをテストして、コンバージョンの良い名称を採用していくというのが定石でした。

ブランディングに力を入れて認知度を上げていこう。そう決めたときに、慎重にサービス名を決める必要がありました。正解もわからず、ブランドのノウハウも知見も何もない。当時、グループ全体からサービス名の案を募り、検討を始めました。数多く寄せられた案の中から絞り、提携先の引越し事業者の声も参考ヒントにしながら、決めていきました。

森下:
アイデアをたくさん出して、多角的な視点のもと検討していくプロセスを大切にされたんですね。社内ではありますが、多くの目によって精査されるため、いわゆる世の中に出したときのスモールテストのようなものかと思います。私たちが提供するサービスは、私たち自身がユーザーになり得るほど身近なものです。ユーザー目線を期待して他部門の方にも協力を仰ぎ、みんなで作っていったサービス名ですね。

鈴木:
また、テレビCMは印象的な仕事でした。記憶に残るインパクトのある企画を出そうということで、とにかく独創的な企画をこれまでたくさん世の中に送り出していきました。人気お笑い芸人を起用した企画、ミュージックビデオ風TVCM「よやきゅん♡篇」「HIKAKU篇」「比古志篇」などがあります。

また、余談ですがミュージックビデオ風TVCMの楽曲は、全国のカラオケ「DAM」「JOYSOUND」でも配信しています。

2023年1月には「引越し侍」の新TVCMがスタート。今回のCMは2016年に放送を開始したTVCM「引越し侍 よやきゅん♡篇」を忠実に再現した第二弾

森下:
テレビCMを含めた広告クリエイティブはクオリティに徹底的にこだわり、とにかくインパクト重視での展開でしたね。こうした長年の積み重ねによって、記憶に残る独創的な企画を世の中に送り出し、ブランド認知の定着につながったのだと思います。

「引越し侍」と言えば、キャラクターも特徴的かと思います。当時のライフスタイルサポート事業でキャラクターを作ったのは初めての経験だったと思いますが、ブランドの認知度だけでなく、キャラクターによる視覚的な要素も必要と考えたからですか?

鈴木:
「引越し侍」というイメージを最もストレートに表現する手法がキャラクター化だったためです。「キャラクターをつくろう!」と思ったものの、やはり当時は社内に知見もなく、キャラクターデザインができるスタッフもいなかったので、デザイン案を募る募集サイトのようなところで、デザイン案を公募しました。数十点の案から一番イメージに近いものを選びました。

実は、この「引越し侍」というキャラクターは、いろんなところで登場するんです。「引越し侍」の宣伝部長という立場で、サイト内の様々なコンテンツはもちろん、ゆるキャラコンテストに出場したり、エイチームが企画・開発・運営するスマホ向けゲームの「ユニゾンリーグ」内にも登場したことがあります。

キャラクターがいることで、サービスそのものに愛着を持ってもらえたり、認知されやすくなると強く実感した事例でした。

森下:
社内にブランディング施策の知見やノウハウ、実績もない時代でしたが、「サービスを覚えてもらいたい」「引っ越しするときに『引越し侍』を思い出してほしい」という本質に対して、どのようなアプローチが必要なのかを考え抜くことで実現できた取り組みかと思います。視覚的、聴覚的、知覚的に記憶に残るものとして「キャラクター」「インパクト性」を重視する。今思えば、とても理にかなったアプローチですね。

そう振り返ると、ブランドを覚えてもらうためにはどうしたらよいのかという思考プロセスそのものが創造性の一部であるとも感じます。改めて「本質」と向き合うことの大切さを実感します。

鈴木:
「創造性」という点で言うと、実は当初「引越し侍」のキャラクターの表情やポーズは2種類しかありませんでした。しかし、SNSへの投稿やサイト内のコンテンツとして登場させる度にたくさんの表情やポーズが生まれ、今では数えきれないほどのバリエーションが存在するようになりました。さらには、愛犬の「ひっこしば」という仲間のキャラクターも生まれています。

認知が上がり、多くの方に知ってもらえ、皆さまに愛され慕われるようになる。やがて、表情やポーズなどクリエイティブが増え、仲間が増え、展開が増えてきた。サービスに関わる一人ひとりが愛着を持って考えてくれました。このように楽しみながらもアイデアが広がっていく様はまさに「創造性」と言える部分かと思います。

引越し侍のキャラクター

愛犬の「ひっこしば」

ブランドづくりが創造性の高いビジネスにつながる。ブランドを資産に

森下:
今後、私たちは、“Ateam Purpose”の実現に向けて、「創造性の高いビジネス」に取り組んでいこう、そのうちの一つとして「ブランドをつくっていこう」ということを掲げています。経営や事業戦略において「ブランド」はどのような位置づけでしょうか。

鈴木:
持論ではありますが、私たちエイチームが展開する各ブランドを「資産」として捉え、ブランド資産を築いていくことが、“Ateam Purpose”の実現につながり、そして経営理念で掲げている「今から100年続く」状態に近づくと考えています。

ブランドを育てていくことで、継続顧客が生まれ、市場での優位性、高い独立性が備わります。そうすることで、持続的な事業の成長が可能になり、私たちは今まで以上に市場に向けて価値発揮することができます。社会と共創することで、エイチームが大切にする「経営理念」の実現により近づいていくものと考えます。そういう意味で、私たちにとって、「ブランドづくり」は経営戦略・事業戦略と同レベルで考える必要があるものだと感じます。

森下:
その考え方、とても共感を覚えます。特にエイチームはゲームやWebサービス、ECサイトなど多様な事業を展開する総合IT企業です。各サービスでブランドをつくり、複数のブランド資産が積み上がっていくことで、エイチームというブランドが形成されていくとも感じます。

エンターテインメント事業では、ゲームを通して世の中に「わくわく」という楽しさを届け、ライフスタイルサポート事業やEC事業では「便利さ」を提供して暮らしが豊かにする。これらの提供価値がそれぞれのブランドを通して世の中に認知されると、エイチームが提供する価値はより大きなものになるでしょう。

そのように考えると、ブランドに関わるすべての人たちみんなで頑張りましょう、価値を提供していこうということに尽きるように思えます。ユーザーの皆さまと直に接するユーザーサポートや接客のスタッフ、法人顧客と接点をもつ企画営業のスタッフ、サービスを知り使ってもらうきっかけをつくるマーケティングのスタッフ、サービスとして最適な体験を提供するエンジニアやデザイナー。一部の人たちだけでなく、サービスに関わる一人ひとりがブランドをつくっていくという意識が大切だと思います。

鈴木:
一人ひとりがブランドをつくっていくという意識は本当に大切だと思います。特に、2016年の「すぐ婚!navi」から「ハナユメ」へのブランドリニューアルの経験で強く実感しました。ブランドコンセプトを大きく変更、提供価値を見直し、サイトのフルリニューアル、サービスのビジネスモデルの変更などを行っています。この時は、「ハナユメ」に携わる社員全員が「ブランド」について考え、私たちの提供価値を高めるためにどのように行動すべきか、一人ひとりが考え実践してきました。

このように、サービスに関わるみんなでブランドについて考え、愛して、育てていけば、ブランドも着実に育っていく。そう実感した経験でした。

「わくわく」「楽しさ」は「創造性の源泉」

森下:
“Ateam Purpose”では、創造性を表すものの一つとして「ブランド」が語られています。以前行った林社長とのインタビューでは、「創造性をもってサービスをつくり価値を生み出す事業は、ブランドを持ち、認知度が高く、利益を生み出す」として、「引越し侍」のブランディングを事例として挙げています。鈴木さんは、エイチームにおける創造性についてどのように考えていますか。

鈴木:
創造性こそがエイチームらしさであり、市場での優位性や高い独立性を作るためにも大切なものだと考えています。今後AIが活躍する時代になればなるほど、「人間ならではの創造性」が一段と大切になると思います。

森下:
「創造性こそがエイチームらしさ」というのは私もとても同意です。事業が多角化し、組織規模が大きくなるにつれて、いつしか「エイチームらしさ」が見えづらくなってきたような気もします。

エイチームらしさとしての「創造性」は、アートや芸術ではありません。経済的な合理性に「新しさ」「楽しさ」「便利さ」…、つまり社会への付加価値が加わったものという印象です。最近は、様々なものがデータ化されて分析をしやすくなったことの副作用として、経済合理性にやや偏っているようにも感じます。

鈴木:
エイチームは、過去の様々な事業の成功や失敗を経て、たくさんのことを学びました。次第にデータを活用したデジタルマーケティングは強みと言えるほど成長しました。デジタルマーケティングノウハウの蓄積により、データが扱えるようになり、高度なデータ分析が可能になり、数字で判断することが増えてきました。定量的に物事を判断することは合理的にビジネスをするためには必要な要素ではありますが、そこに「遊び心」が少しずつ失われてきたかもしれないです。

「引越し侍」のブランド立ち上げ当初は、社内に知見もノウハウもなく、予算もない。あるのは「こんなことができたら楽しいよね」というアイデア。それでも、みんながビジネスの成功を祈って、意見を出し合い、ぶつけ合い、試行錯誤しながらたくさん挑戦してきました。

当時は、新規事業のアイデアがたくさん立ち上がって、「引越し侍」のビジネスモデルを参考にした比較サービスを次々と誕生させ、「こんなサービスがあったら楽しいよね」「便利だよね」という会話が社内の至る所でされていました。たくさん挑戦したし、たくさん失敗もしました。その根底には「ビジネスを楽しもう」という姿勢があったような気もします。

森下:
「合理性」「経済性」の陰に、「創造性」が隠れてしまったようにも感じます。ビジネスを楽しむ姿勢を大切にしながら、経済合理性と創造性がうまくバランスをとっていくことが大切だとも思います。

そのためには、「わくわく」が大切だと思います。林社長はよく「考えること、創造すること、世の中に驚きを提供することに、楽しさを感じ、わくわくした」と語っています。そして、この「わくわく」が創造性を発揮するとも語っています。改めて、「ビジネスを楽しもう」という気持ちを大切にしていきたいですね。

鈴木:
「わくわく」=「創造性」は、エイチームのビジネスの根源のような気もします。そして、その前提には、社員が会社や事業に愛着を持っているということ。その愛着が「ブランド」を育ててきたのだと思います。

ブランド戦略部の責任者としても、全社員でブランドをつくっていきたいと考えています。サービスに関わる社員一人ひとりが「ブランド」について考え、それぞれの役割・職能で日々実践していく。お客さまとの対話を通して、さらにサービスを進化させていく。この循環を繰り返すことで、愛されるブランドに成長していくのだと思います。今後は、エイチームの強みの1つとして「ブランド力」を語れるよう、日々推進していきたいと思います。

森下:
最後となりますが、私は社会的意義・ミッション検討プロジェクトの推進リーダーとして、“Ateam Purpose”の策定のプロセスに関わってきました。“Ateam Purpose”は、エイチームの「原点」に立ち戻り、これまでの社会への提供価値を振り返りながら策定しました。

今日の対談では、「引越し侍」のブランド立ち上げの過去を振り返りながら、エイチームの価値創造の源泉に触れたような気がします。ブランドをつくる過程が創造性の高いビジネスにつながる。とても納得感があります。

“Ateam Purpose”の実現に向けて、創造性の高いビジネス、創造性を発揮する組織、そして創造性の基盤となる文化づくり、エイチームの土台をしっかりと作っていきたいと思います。

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