コラム
2026/07/30
【社員インタビュー】新設「AI推進室」が挑む「人間ありき」から「AIありき」への変革。人とAIが共創する未来へ
AIの進化への対応・適応を見据え、グループ全体の業務の構造変革を促進することを目的に、2026年5月、社長直轄の組織として「AI推進室」を新設しました。世の中でAIシフトが急速に進む中、エイチームグループのビジネスはどう変化・進化していくのか。なぜ今、全社横断の専門組織が必要だったのか。今回はAI推進室の室長を務める綿貫佳祐さんに、新部署設立の背景や目的、目指すゴール、さらにはAI時代に求められる人材やこれからの働き方についてお話を聞きました。
株式会社エイチームホールディングス AI推進室 室長 綿貫 佳祐さん
2017年にエイチームへ新卒入社。複数のサービスに携わり、デザイン組織の部長とリードデザイナーを兼務。デザインツールFigmaの書籍出版や雑誌への掲載、各種イベントやカンファレンスでの登壇、非常勤講師として大学での講義など対外的な活動も精力的に行う。Qiita株式会社 CX向上部の部長などを経て、現在はエイチームホールディングスAI推進室の室長を務める。
AI推進室を立ち上げた背景
社長と会話を重ねるうち推進役に
以前から、社内でのAI普及に関して漠然とした危機感を持っていました。全社を挙げたAI活用に関する取り組みは、全社横断のAI研究・開発プロジェクト「AI WORKING GROUP」をはじめ、全社員対象のAI基礎研修の導入、IT統括部が主導する生成AIガイドラインの策定や導入など、いくつかの動きがありましたが、いずれも限定的であった印象でした。
そうした危機感を持ちつつも、私はデザイナーということもあり、AIの普及についてはエンジニアが主体となって進めるものだと思っていたんです。ですが、社長とAIの社内推進について会話を重ねていくうちに、私が推進役を務めるのが良いだろうという話になり、2026年5月にAI推進室の発足に至りました。
AI推進室は最先端の技術そのものを追究すること以上に、それを使いこなす 「組織のあり方」や「社員のマインドセット」を変革していくことを重視しています。だからこそ、これまでビジネスとデザインの現場を越境してきた自分が、推進役としてリードしていく意義があると感じています。
AIを積極的に活用できる会社にするために
当時、社内の課題として感じていたのは、AIが全社的な目標として明確に位置づけられておらず、責任を担う人や部署も存在していなかった点です。そのことが、社内でのAI活用が思うように進まない一因になっていると考えていました。
実際、どの部署も目の前の予算や数値目標の達成に全力を注いでおり、そのような状況下で「いずれAIが使えるといいね」という温度感では、活用が進むはずもありません。こうした構造的な課題を踏まえ、AIを組織的に活用できる体制を整えることがAI推進室の役割だと考えています。

AIを積極的に活用すべきと考えるようになった環境の変化
AIありきでビジネスができていないと劣位になる
世の中のAIシフトが急速に進んでいる現状があります。現在の市場環境やAIを取り巻くビジネスについて考えると、今はまだ「AIが使えると優位」といった空気が漂っているように思います。しかし、遠くないうちに「AIありきでビジネスができていないと劣位」といった状況になるとも考えています。
よくある例ですが、かつて活版印刷が普及したことで写本師が職を失ったように、これからはなくなってしまう職種や事業も出てくるはずです。まずは、この現実から目を背けずに受け止める必要があると思っています。
これから広がるであろうビジネスの形
一方で、AIの普及によって新たに需要が拡大するビジネスも生まれると思います。今は、自分でコードが書けなくてもアイデアさえあればアプリをリリースできる時代になっています。かつてスマートフォンの普及によってアプリ開発の門戸が大きく開かれたように、同じような変化が起きつつあると感じます。
ただ、そうやって誰もが簡単にプロダクトを作れるようになるからこそ、その裏側で「人間臭いビジネス」も出てくると思っています。たとえば、AIの出力に対して「最終的な責任を引き受ける」役割や、一人社長がAIを活用して開発したプロダクトのセキュリティの面をフォローしていくようなビジネスです。こうした、人にしかできないビジネスにもチャンスが広がっていくと考えています。
エイチームの既存ビジネスや事業モデルにも影響
AI環境の変化により、これまでエイチームの強みとしていた広告運用やSEOといった領域に大きな影響が出る可能性もあると考えています。先日、Google社よりAIを活用した検索機能の大幅な刷新について発表(※)がありました。検索は「リンクを探す場所」から「AIが必要な情報をまとめてくれる場」へ変わるといった内容でしたが、これは私たちのビジネスにも関連がある話だと感じています。
「自分たちが手がけている個別のサービス領域とは厳密には少し違う」とか、「日本で完全に普及するのはまだ先の話だ」などと言って、楽観視していられる状況ではありません。潮流が明確である以上、今から強みを再定義し、AIを前提とした組織・事業・人材体制へとシフトしていく必要があると思います。
※2026年5月に開催された開発者イベント「Google I/O 2026」で発表
https://blog.google/intl/ja-jp/products/explore-get-answers/search-io-2026/
慢心していると足元をすくわれる
こうした変化に対応するためには、かつて私たちがガラケー(フィーチャーフォン)からスマートフォンへと主戦場を移したときのように、世の中の常識が完全に塗り替わる前に、いち早くシフトすることが重要です。加えて、新しい技術やプロダクトが登場したとき、「特に新しいものはなさそう」「そこまで日本では流行らないだろう」など、決めつけないこと、つまり慢心しないことが大事だと思っています。現在の業務を効率化し、今あるスキルを最大限に活かす工夫はもちろん重要です。しかし同時に、「もし自分の仕事が今日、AIによって完全に代替されたらどうするか」という前提でも、思考を巡らせておく必要があります。慢心すれば足元をすくわれかねない時代です。いま、AIに真剣に向き合い、日々の業務や勉強の仕方などを変えていく必要があると考えています。
これからの課題
どのくらいのスピードと熱量で全社的に取り組めるか
一般的には、「企業としてAI活用は早い段階から推進したほうが良い」という考え方があると思います。確かに、業務効率化の観点から見れば、先行者利益はあるかもしれません。しかし私は、たとえスタートが遅れても、その後の取り組み方次第で 追いつき、追い越せるチャンスは大いに あると考えています。
差を生むのは「いつ始めたか」ではなく、「どれほどのスピードと熱量で、組織全体を巻き込めるか」です。
一部の熱心な社員だけがAIを使いこなしていても、周囲が冷めていれば組織としての変革は進みません。むしろその温度差こそが、組織全体のAI活用を阻むボトルネックになってしまいます。どれほど早くスタートした企業であっても、全社的な巻き込みができなければ先行者利益は限定的なものにとどまります。逆に、後発でも組織全体が一体となってAIを使いこなしていけば、追い抜くことができると考えます。
もっとAIを使いこなせるように
そのためには、社員一人ひとりのマインドセットが欠かせません。
現在の社内でのAI活用は、手元の作業を少し早くするための「足し算」にとどまっていると感じます。これを、自分の可能性を広げる「武器」として捉え直すことで、組織の力は「掛け算」に変わっていきます。
たとえば、企画から制作、分析までこなせるマルチな人材が、AIをうまく組み合わせて自身の能力を拡張し、人数分以上の成果を生み出せるようになる。一人ひとりが「自分のやりたいことを実現する手段」としてAIを使いこなせる状態を、まずは目指していきたいと思っています。
また、技術の世界では、エンジニアが「遊びの延長」で触り始めた新しい技術が、のちに世の中を変える大きな事業に育った例が数多くあります。
かつてのエイチームには、まさに技術オタクと呼べるようなギークなエンジニアたちが、「ガラケーで大人数接続は難しい」といわれていた時代に、純粋な好奇心から「実現できるのではないか」とトライし、それを成し遂げたことがありました。
最近は、そうした新しいことに純粋な好奇心でトライするマインドが、少し薄れているようにも感じます。だからこそ、みんながAIを日々の「遊び道具」のように気軽に触れる環境をつくり、眠っているギークな精神を呼び起こしていきたい。挑戦のハードルを下げていくことも、これから取り組むべき大切な課題の一つです。
AI推進室が目指すゴール
パソコンと同じくらい当たり前の存在に
AI推進室として、全社的にAIを使うことが当たり前になっている状況をつくることをゴールに設定しています。今、エイチーム社内で仕事をするにはパソコンが欠かせません。資料作成、開発や分析はもちろん、アイデア出しから会議に至るまで、パソコンなしで仕事を進めることは想像できません。そのレベルと同じくらいに、誰もが意識せずに自然にAIを使っている状態を3~4年かけてコツコツと作っていきたいと考えています。
AIに仕事を任せておいて、自分は外に出かける
AIが当たり前になると、働き方も変わってくると思います。業務が効率化されるだけでなく、個人的にはもっと「人間が外に飛び出すような働き方」にしていきたいと思っています。たとえばエンジニアであれば、開発作業はAIに任せておくことで、普段の専門領域とは異なる異分野のイベントに足を運び、そこで得た新しい視点とエンジニアリングを掛け合わせて新たな発想に繋げることができるようになります。
また、企画やマーケティングにおける競合分析でも、ただパソコンに向かって数字を追う仕事はAIに任せ、自分自身は実際に現場に赴き「肌で感じた現場の情報」を取りにいく。
そうしてロジカルな処理や調査はAIに任せ、人間は大胆な発想や現場でのリアルな体験を担う。こうした役割の棲み分けこそが、人間がAI時代を生き抜くための生存戦略ともいえるのではないかと思っています。
哲学的な考え方ができる人材が求められる
AIの活用が進むこれからの時代、哲学的に物事を捉えられる人材が活躍していくと考えています。私自身、仕事を進めるうえでは個々のタスクだけに注目するのではなく、それらを取り巻く流れや関係性といった全体の構造を捉えることを重視しています。いわば、構造主義的な視点をもって思考・行動することを心がけています。
このように哲学的な姿勢があれば、組織のマネジメントや意思決定を担う存在として、今後も求められる人材になれると感じています。一方で、与えられた指示をそのまま実行するだけの作業的な仕事は、すでにAIのほうがはるかに高い精度と効率で行えるため、その領域では人間が置き換えられていくと思います。
実現したい未来へ向けて
人間がプライドやこだわりを捨てられるか
「AIありき」の事業・組織構造へ変化させていくためには、まず、人間自身が保有効果やプライド、これまでの経験へのこだわりを捨てる覚悟が必要だと思います。そのうえで、AIが得意とする領域を見極め、現在の業務を一度フラットな視点から再構成していく順序が重要だと思います。最も大変なのは、ツールをうまく使いこなすこと以上に、人間の感情的な側面と衝突せずにAIを浸透させていくことだと感じています。
これから取り組んでいきたい施策
そのための具体的な施策として、まずは「守りの自動化」から土台を整える必要があると考えています。現状の体制のまま各事業部でAI活用だけが急増しても、法務部門によるリスクチェックや社内ITの対応といったバックオフィス側の負担が増え、組織全体として受け止めきれなくなってしまいます。これでは「AIを入れたせいで、かえって忙しくなった」という印象だけが残ってしまい、本質的な浸透には繋がりません。
そうした定型業務や手続きなどの“守り”をまず自動化して受け皿を整えたうえで、同時に、売上や成果を伸ばすための“攻め”のAI活用も並行して進めていく。この両輪を回すことで初めて、企業価値の向上に結びつくと考えています。
また、AI推進室としてのロードマップを社内に公開し、私たちが今どこを目指し、何に取り組んでいるのかを透明性高く共有しながら、全社を巻き込んで進めていく予定です。
生き抜くためには挑戦あるのみ
今のAIの流れに乗れなければ、おそらく生き残るのは難しいと感じています。ビジネスパーソンとして、そして会社として、生き抜くために必死に取り組むしかない。言わば「生存者リスト」に名を残すための挑戦だと思っています。たとえるなら、石油が登場した時代に、いつまでも石炭で動く製品だけを作っているような状態ではいけない。新しいエネルギー、つまりAIを自分たちの力に変えていくことが必要だと思っています。