コラム

2026/06/18

【microCMS】M&Aから2年、プロダクトの強みに「届ける力」を。PLG×SLGのハイブリッド戦略で挑む次の成長フェーズ

【microCMS】M&Aから2年、プロダクトの強みに「届ける力」を。PLG×SLGのハイブリッド戦略で挑む次の成長フェーズ

成長戦略の遂行に向けて実行したM&Aにより、ヘッドレスCMSを展開するmicroCMS社がエイチームグループの一員となって約2年が経過します。ジョイン以来、マーケティング戦略、エンタープライズ施策の強化のほか、プライシングの実施等にも取り組み、順調に導入社数は拡大、MRR(月次経常収益)も上昇してきました。また、ビジネスチームの体制構築による営業活動やマーケティングの強化を行うなど、PLG(プロダクト主導)に加え、SLG(営業主導)の導入も進んでいます。今回は、エイチームからmicroCMS社へ出向し、取締役として同社のグロースに取り組んでいる鈴木琢人さんにお話を聞きました。ご自身の経験を活かした取り組みやPMIのプロセス、攻めのアプローチへ向けた体制強化、microCMSの今後の展望などについてお聞きします。
microCMS サービスサイト:https://microcms.io/

株式会社microCMS 取締役 鈴木 琢人さん

立命館大学を卒業後、2017年に株式会社エイチーム(現 エイチームホールディングス)に新卒入社し、グループの業務改善・予実管理などを行う。2019年よりQiita株式会社に異動し、Qiitaを活用した広告プロモーションの営業・事業開発に従事。ビジネス領域の経験を活かし、株式会社microCMSのM&A実行時のDD(デュー・ディリジェンス)にも関与。その後、2024年6月より取締役としてmicroCMS社へ出向し、営業やマーケティングなどのビジネス領域の組織立ち上げを担当。

自身で掲げたミッションと目標

事業計画の達成とPMIの完了へ向けて

microCMS社への出向が決まった際、「事業計画の達成」と「PMIの完了」が自身のミッションであると認識しました。事業計画については、3ヵ年を見据えた計画を策定し、その基盤を2年以内に確立する方針を自分の中で定めていました。PMIに関しては、組織体制や各種規程の整備を1〜2年のスパンで推進したいと考えていました。会社のハード面を整えることをベースにしながら、事業成長と利益を計画通りに進めることも強く意識しました。

M&A・PMIの成功事例を創出する

2つのミッションに加えて、「M&A案件での成功事例をつくる」ことも目標として掲げました。事業の成長、PMIプロセスの完遂、そして組織融合を含め、エイチームグループとしてM&Aの成功事例をつくりたいと考えたんです。M&A後のPMIを「整える」だけではなく、事業成長へ直結する仕組みを現場主導で構築し、再現性のあるモデルとして確立することに価値があると考えました。PR・IRの観点からも、成長のエビデンスやコミットメントを外部に示すことは重要なポイントです。成功事例を創出することで、事業計画および組織統合の両面でエイチームグループのPMIにおけるロールモデルを発信することにつながると考えました。

microCMS社の経営陣と密に連携

microCMS社から期待されていたこと

ジョイン後、microCMS社の経営陣と密にコミュニケーションを取りながらPMIを進めていきました。経営陣からは「成長角度を上げていきたい。そのためにビジネスサイドを全面的に任せしたい」という要望がありました。加えて、エイチームグループの文化や制度を理解している立場として、microCMS社の良い部分を残しながら組織統合を進めていくことも期待されていました。実際、私が橋渡し役として機能することで統合作業が円滑に進んだ場面も多く、経営陣から感謝の言葉をいただきました。また、エイチームとQiita社での経験を活かして経営管理の領域も私が担当しましたが、その領域でも貢献ができていると感じています。

経営陣に事前インタビューを実施

microCMS社のM&Aに関する検討が始まった際、私自身が同社のビジネスDD(※)に関与しました。その中で、microCMS社の経営陣に対してインタビューを2回実施しました。1回目は事業の現状や課題を把握するためのヒアリング、2回目はその結果を踏まえた事業成長に向けた改善提案の場でした。提案の方向性が、経営陣が描いていた内容に近くて「ぜひ進めていこう」と話がまとまりました。そうした事前のプロセスがあったからこそ、PMIの推進フェーズでは安心して任せてもらえたのだと思います。

※ビジネスDD(ビジネス・デュー・ディリジェンス)…M&Aや事業投資において、対象企業のビジネスモデル、市場環境、競合優位性、およびシナジー効果を詳細に調査・分析するプロセス

対話を重ねて計画を推進

経営陣へのインタビューを通じて策定した事業計画は、高い難易度を伴うものでした。数値目標も、実行にあたっては相当な負荷と覚悟を要する内容だと認識していました。この難易度の高さは机上の想定によるものではなくて、私自身が過去にQiita社に出向した経験から感じたものです。実務上の課題や難しさを具体的に理解していたことで難易度を実感することができました。

大変さを実感できていたからこそ、コミットメントできたところもあったように感じます。思い描いたストーリー通りに施策が進まない部分もありましたが、microCMS社の経営陣の理解と協力を得ながら、事業計画との乖離が発生した場合でも、改善に向けた対話を重ねていきました。必要に応じて適切な軌道修正を実施することで、事業計画に対しては、概ね順調に成長できていると感じています。

Qiita社で培ったビジネス支援経験を活かす

経験を活かして様々な施策を実施

microCMS社に出向するまでは、技術情報サイト「Qiita」の営業やマーケティングの強化を担当していました。その時に得たビジネスの経験は、microCMS社でのPMIに活用することができたと思います。

例えば、Qiita社での経験を踏まえ、Qiitaを活用したエンジニア向けのプロモーション施策やウェビナー・展示会を通じた顧客獲得施策を実施しました。Qiita社の事業開発部でクライアント企業の様々なプロモーション支援やイベント企画・運営を担当していた経験を活かし、マーケティング施策およびリード獲得の強化に貢献することができました。さらに、営業組織の立ち上げを主導し、データ管理方法やオペレーション体制の整備にも取り組みました。これらの取り組みは、Qiiita社でセールスマネージャーとしてセールス基盤を整備した経験が活かされたと考えています。

QiitaとmicroCMSの共通点、相違点

QiitaとmicroCMSに共通しているのは、どちらもプロダクトに魅力があることです。Qiitaは、日本最大級の技術情報サイトという圧倒的知名度と150万人を誇るユーザー基盤がクライアント企業の広告出稿につながり、Qiitaの広告事業の成長を実現することができました。microCMSも、国内最大級のヘッドレスCMSという高い独立性を有した優れたプロダクトであり、効果的なプロモーション手法などを的確に伝えることで、さらなる拡販が期待できると考えています。

一方で、両プロダクトには異なる特性もあります。Qiitaの媒体の特性上、広告によるスポット型の売上が中心で、リードタイムが短いという特徴があります。そのため、大手企業との契約獲得には一定の時間を要するものの、最終的には成果を上げることができます。反対に、microCMSは顧客獲得に向けたリードタイムが長く、特に大手企業との契約推進においてはQiitaに比べると難しさを 感じています。しかし、契約に至った後は長くご利用いただけるサービスとなっており、安定したストック型の売上基盤を構築することができます。

過去の反省を踏まえてPMIを推進

Qiita社でのPMIにおいて上手くいった部分といかなかった部分の双方を踏まえ、バランスを意識しながら実行に移すことができたと考えています。Qiita社でのPMIの際は、すべての制度をエイチーム側に統一したことで一部の運用が機能しづらくなるなどの課題が生じました。今回は、統合すべき点と既存の仕組みを維持すべき点を見極めながら進めていきました。その結果、働き方などmicroCMS社として重視していることを尊重した形でPMIを推進できたと思います。初期段階から理想像を一方的に押し付けるのではなく、現場の強みを理解し、そこから導かれる勝ち筋に沿って再現性のあるモデルを構築することの重要性を実感しました。

PMIを進めるうえで意識した3つのこと

1. ジョイン企業の価値観や背景を理解する

microCMS社の過去の経緯を的確に把握・理解したうえで、各施策を進めるように努めました。不明点や懸念点については積極的に確認・対話を重ね、前提条件を共有し合ったうえで意思決定を行うことを徹底しました。microCMS社にはドキュメント文化や「オープンでいよう」というバリューが根付いており、情報が体系的に蓄積されていたため、スムーズに全体像を把握することができました。

今回は折衷的なアプローチを取り、重要な要素についてはmicroCMS社の文化や仕組みをできる限り尊重した形で調整していきました。例えば、給与制度やリモートワーク等の働き方は変更していません。一部、社内ツールの統一・変更に対して意見もありましたが、その背景や必要性を経営陣に説明することで、折衷的な判断である旨を納得していただくことができました。

2. ジョイン企業の文化を尊重しながら、緩い合流を図る

エイチームグループ、microCMS社、そして働くメンバー全員にとって何が最善かを常に意識し、意思決定にあたってはその視点を重視しました。グループ全体の方針としてトップダウンで決定するのではなく、各施策のメリット・デメリットを整理し、本質的に重要な要素を見極めたうえで判断することを徹底しました。また、エイチームが大切にしている「お互いを認め合う」という価値観とmicroCMS社の「本質を見極め行動しよう」というバリューを常に意識し、実践することを心がけました。

3. 対話によって信頼関係をつくる

取締役として組織づくりに責任を持つ立場から、社員一人ひとりと相互に自己開示しながら対話を重ね、まずは人と人との信頼関係を築くことを徹底しました。対面で実施するオフ会やオンラインでのCoffee Chatなどを活用し、全メンバーとのコミュニケーションを積極的に行う等、信頼関係の構築に努めました。

また、トップダウンで指示を出す立場ではなく、メンバーと共に行動し、共に考える姿勢を意識することで、「一緒に働く仲間」であるという認識を持ってもらえるようにしました。加えて、バリューである「誠実に振る舞おう」を常に意識し、行動の軸としました。結果として、エイチームとmicroCMS社それぞれが大切にしている価値観を意識した行動ができたと考えています。

PLG(プロダクト主導)とSLG(営業主導)のハイブリッドへ

ビジネスチームの立ち上げに向けて行ったこと

先述の通り、microCMSは、高い独立性を誇る優良なプロダクトというのが強みです。そのため、これまでは、特に営業活動などに注力しなくても、プロダクト自体の価値でユーザーを獲得し、成長してこられたという実績があります。一方で、さらなる成長に向けてはマーケティングやセールス機能の強化が必要でした。

最初に着手したのはビジネス人材の確保です。外部からの新規採用およびエイチームグループ内からの出向を通じてマーケティング・セールスの各メンバーを揃え、経営陣からビジネス領域の業務を段階的に引き継いた上で、ビジネスチームを発足させて組織体制を構築しました。さらには、既存のカスタマーサクセスチームも含めて組織全体を再編し、役割の整理、目標・KPIの設定、そして各種施策の実行という流れで組織強化を推進しました。

SLGを取り入れて、さらなる成長を

このように、私が着手した取り組みの一つは、PLG(プロダクト主導)中心だった事業モデルに、SLG(営業主導)の要素を取り入れることです。もともとmicroCMSはPLGによって成長してきた一方で、個人利用だけでなく大手企業を含む法人での導入も増えつつある状況でした。そうした変化を受けて、より能動的にアプローチをかけていくことで、プロダクトの利用拡大に繋げられると考えました。実際、潜在的に活用可能性のある企業への接点を増やす取り組みを進めていきました。

エンタープライズへのアプローチ

次に注力したのが、エンタープライズ(大手企業)へのアプローチです。マーケティング面では、事例記事やウェビナーを通じて大手企業の方々に関心を持っていただける情報発信を行うほか、展示会などリアルな場での接点の創出にも取り組みました。これにより、これまでオンライン上で接点を持てていなかった層との関係構築を強化しました。セールス面では、既に導入いただいている企業様を参考に、未開拓の企業に対してアウトバウンドでの接触を試みたり、エイチームグループ内の顧客ネットワークを活用して紹介を受けるなど、接点の幅を広げる取り組みを実施しました。

パートナーマーケティングによる課題解決

パートナーマーケティング(代理店戦略)の強化にも取り組みました。エンタープライズへのアプローチを進める中で、大手企業のCMS関連部署と接点を持つことが難しい点、接点を持てたとしてもCMSに関する課題が顕在化していない場合には導入に至らないといった課題が出てきました。これらを解決するために、大手企業との関係性をすでに持ち、CMS案件を担当している企業とのパートナーシップを強化しました。

パートナーは100社以上に

新規パートナーの開拓にも積極的に取り組みました。2024年7月時点でのパートナー社数は38社でしたが、当時はリソースの制約もあり新規受付を一時停止していました。その後、先述の通りビジネス組織の体制を整備したことにより、利用促進を目的にパートナー受付を再開。既にmicroCMSをご利用中の制作会社や、利用顧客と親和性の高いクライアントを持つ制作会社などに積極的に声をかけ、現在では100社以上のパートナーと連携するまでになりました。

また、パートナーの獲得に留まらず、パートナー企業のトレーニングや支援にも注力しています。専用のSlackチャンネルを設けて提案時のサポートを行ったり、提案資料の提供や成功事例の共有などを通じて、よりmicroCMSを提案してもらえる体制づくりを進めています。一部のパートナーとは、定期的なミーティングや勉強会、共同ウェビナーなども実施し、ともに案件を創出していく仕組みを構築しました。

エイチームのリソースを活用して成長を加速

柔軟な人員配置と早期体制構築

エイチームグループのリソース(知見、人脈、他事業部との連携等)については、microCMSの事業成長を加速させるため、ヒト・モノ・カネそれぞれの観点から効果的に活用するよう努めました。まずヒトの観点では、初期段階の組織構築において出向者を含め柔軟な人員配置を行うことができたため、ジョイン直後からビジネス組織をスムーズに立ち上げ、早期に実行フェーズへ移行することができました。

安定基盤を活かした投資

カネの観点では、グループ参画によりキャッシュフロー面での懸念が軽減され、投資判断を迅速に行えるようになりました。その結果、人材採用、イベント実施、展示会出展などの投資を積極的に進めることができました。さらに、事業運営において利用するサービスをグループ包括契約に切り替えたことで、AWSサーバ費用などのコスト削減にも成功しました。

グループノウハウによる組織基盤の強化

その他の観点として、組織運営面でも助かった部分があります。具体的には、評価・目標制度の改善や、未整備だった規程類の整備強化においてエイチームを参考にするなど、コーポレート関連の基盤強化に活かすことができました。エイチームではすでにヒト・モノ・カネの観点で体系化が進んでいたため、適応できる部分は積極的に合わせ、合わない要素は無理せず実務に適した形に落とし込むことを重視しました。

計画通り着実に成長している要因

プロダクトの強みに「届ける力」が加わる

ジョインから約2年で、MAUの上昇やリード獲得数の増加など、目に見える成果が出てきました。その要因として大きいのは、もともと持っていたプロダクトとしての強みに、「広げていく」「届けていく」ための力が加わったことだと考えています。これまで高い価値を持つプロダクトでありながらも、十分に発信しきれていなかった部分に対して、エイチームグループ全体のリソースを活用しながらアプローチできるようになりました。

実行環境が整い、試せる施策が増加

ジョイン前から構想していたものの、リソース面で実現できていなかった施策を、ヒトやカネの観点で実行できるようになったことも大きな変化です。コンテンツマーケティングの量と幅を拡大したほか、ウェビナーや展示会の実施、Qiitaや外部メディアを活用したプロモーション、さらにはアウトバウンドや紹介営業、パートナーセールスの強化にも取り組みました。これにより、発信チャネルと顧客接点が大幅に増え、プロダクトを知ってもらう機会を着実に積み上げることができました。これらの施策によって、直接的な案件獲得だけでなく、サービスを知ってもらう機会が増え、間接的に成果へつながっている部分も多いと感じています。

microCMSが目指す未来

エイチームグループの力を活かし、成長を加速させる

エイチームグループの知見やノウハウを活かすことで、microCMSをより多くの人へ広げていけると感じています。資金面でのサポートもあるため、積極的な投資や新たな挑戦を行いやすい環境が整いました。プロダクトの価値が高いほど、マーケティング、セールス、カスタマーサクセスといった「届け方」が揃うことで成長はさらに加速します。グループ参画によって、成長のための基盤であるヒト、知見、投資余力を取り込みやすくなったことは大きな意義だと考えています。

国内外で選ばれるプロダクトへ

引き続きプロダクトを磨きながら届けていくことで、国内の多様なユーザーや企業に利用してもらえる存在を目指しています。直近ではAIを活用した開発が主流となっているため、サービスとしてAI機能を充実させるだけでなく、AIを活用した開発フローや業務フローに寄り添うことで、より多くの方々にとって使いやすいプロダクトにしていきたいと考えています。microCMSはシンプルなUIでコンテンツ管理に特化したプロダクトです。将来的には国内にとどまらず海外でも活用されるプロダクトへと成長させていきたいです。単なるCMSの選択肢の一つにとどまらず、開発者体験の良さを軸に、企業のコンテンツ運用や開発スピードを支える“基盤”として、当たり前に選ばれる存在を目指していきます。

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