コラム
2025/03/25
どんな発想から生まれたの?!WEB動画「引越し侍」の「ちっちゃい『っ』いらん」制作秘話。

エイチームは、2022年9月に“Ateam Purpose”である「Creativity × Techで、世の中をもっと便利に、もっと楽しくすること」を発表しました。今回は、その「Creativity」=創造性をいかんなく発揮して活躍するクリエイティブディレクターの西田良平さんにお話を聞きます。西田さんは謎のアイドル「よやきゅん♡」でおなじみの『引越し侍』のCMなど、数々の印象的なクリエイティブを手がけてきました。
今回スポットを当てるのはSNSで318万回再生されるほど話題となった『引越し侍』のWEB動画「ちっちゃい『っ』いらん」です。このクリエイティブは、CMコンペティション「2024クリエーティブコンペ in中部」で最優秀賞を受賞しました。あの動画はどのようにして生まれたのか?企画者である西田さんにご自身の「Creativity」を通して解説いただきます。
エイチームライフデザイン クリエイティブディレクター 西田 良平さん
コピーライター、CMプランナーとして活躍した後、2023年にエイチームへ中途入社。前職時代から担当する『引越し侍』のCMの企画・クリエイティブディレクションやプロモーション、『イーデス』のプロモーション等を兼務。その他、『ナヤモン』『ナビクル』など様々なサービスのクリエイティブ、ブランディングに携わっている。
『引越し侍』のCMでおなじみ「よやきゅん♡」の生みの親が、エイチームのブランド戦略を語る
「引越し侍」の「ちっちゃい『っ』いらん」
SNSやメディアなどで「引っ越し侍」と書かれているのを見かけます。正しくは『引越し侍』。つまり、ちっちゃい「っ」はいらないのです。単純にそれを伝えたいだけの動画を制作しました。ちっちゃい「っ」はいらいないことを強く印象付けるために、中毒性のあるクリエイティブに仕立てました。
前職の広告代理店時代からずっと『引越し侍』のテレビ・ラジオCMの企画・制作を担当しています。以前からCMクリエイティブを制作した後にエゴサーチをする習慣がありました。その時に「引っ越し侍」という表記をたまに見かけたんです。
違うぞ、と。ちっちゃい「っ」いらんぞ、と。
サービス名や会社名が正しく覚えられることは認知にもつながる大事なことです。「サービス名が正しく覚えられていないこと」を『引越し侍』の課題と捉えました。「っ」はいらないと伝えることで、正しいサービス名を覚えてもらうことはもちろん、すでに「っ」がいらないことを知っている人からも共感を得ることができると考えました。
軽快な音楽とリズム。SNSでオモチャにしてもらう
まずは「音」から。そして、次にビジュアル
メッセージやイメージを擦り込む手段として「音」はかなり有効です。最初は、音のアイデアから始まりました。まず、「引っ越し侍の、ちっちゃい「っ」いらん」を連呼する、あのフレーズ、節やテンポを考えたんです。
そして、次にビジュアルについて考えました。今回の課題を考えると「引っ越し侍/引越し侍」の文字はずっと表示させておいたほうがいい。では、どんな絵がいいのか。最初に思いついたのが、大きな手が出てきて「っ」を投げるというもの。それ一辺倒では飽きると思って、バレーボールの選手が出てきて「っ」をトス・アタックする、プロレスラーが出てきて「っ」を潰す、など別のパターンを考えていきました。その過程の中で、リアルな映像よりもイラストのほうが表現として適しているという案も浮かんできました。
メディアの選定と狙ったターゲット
今回のクリエイティブの性質を考えるとX(旧Twitter)で展開していくのが最適であると考えました。テレビCMにしては緩すぎます。SNSでオモチャにしてもらう、面白がってもらう、ツッコミをいれたり、ボケたりしてもらえるような性質の動画だと考えました。
また、ターゲティングできる点もXを選定した理由の一つです。引越しを考えている人、あるいはフリップネタや歌ネタなどのお笑いが好きな人をターゲットに設定しました。そんな人たちに『引越し侍』のサービスを知ってもらう、既に知っている人には正しい表記を知ってもらうことを目的としました。
創造性には、徹底的なこだわりが必要
シュールなイラストになった理由
アイデアは浮かんだものの実際に作れるかどうかを確認するために、コンテのつもりでイラストを描いてみたんです。その後、「これくらい緩くて下手な絵のほうがオモチャにされやすいのではないか?」と考えて採用することにしました。
「シュールな絵でいいね」と言われるんですが、いやいや、私、あのタッチしか描けないんです(笑)
「そこまでやる必要あるの?」と思われるくらいに
制作をするうえで様々な点にこだわりました。例えば「っ」の“あしらい方”。大きな手が出てくるだけではなく、バレーボールの選手やプロレスラーだけではなく、実はたくさんの案を考えました。「っ」を守るキャラクターも描いたり。全部のアイデアを使いたかったんですが、多すぎるのもしんどいですし、同じ内容を繰り返すことで中毒性を出すこともできます。
「音」「曲」にもこだわりました。「こんな感じの曲」というイメージがあったんです。当時、流行っていた中毒性のある曲があって、それを意識して制作を進めました。また、この企画自体、大変シンプルなものです。「サービス名に『っ』はいりません」と言っているだけです。
そこまで強く押し出すことでもない内容を「そこまでやる必要ある?」と思われるくらいアピールすることで、良い意味での違和感や気づきを持ってもらい、印象に残ることを目指しました。そのあたりは大変ロジカルに設計しています。文字、音、イラスト、全体の構成や展開・・・それぞれの細かい部分まで、徹底的にこだわって作り込んでいます。
見る人のことを考えて企画・制作する
制作する際は、見る人がどう感じるか?を考えるようにしています。今回意識したのは「面白がってもらうこと」。オモチャにされるという表現を使いましたが、つまりは面白がったり、ツッコミを入れたり、ボケたくなったりするものを意識しました。また、ずっと『引越し侍』のクリエイティブを担当してきたので、これまでとブレのない一貫性あるトーンになることも意識しています。面白がってもらい、かつ、しっかり『引越し侍』らしさも感じてもらうことで『引越し侍』を覚えてもらう、正しいサービス名を覚えてもらうことを目指しました。
CMコンペティションで最優秀賞を受賞
「ツボった」の声に拳を握った
Xで展開をしたので、様々なコメントをもらうことができました。「ああ、『っ』いらないんだ」とか「ツボった」とか。また、「フリップネタや歌ネタを想起させる」なんて狙い通りのコメントも見かけました。リツイートも100万を超えましたし「いいね!」の数も上々。とても良い反応をいただき、ありがたく思いました。一方で、まだ「っ」が残っている表記も見かけました。ターゲティングを絞ったことが原因かもしれません。完全な課題解決とはいきませんでしたが、一定の効果はあったと実感しています。
「2024クリエーティブコンペ in中部」で最優秀賞を受賞
CMコンペティションである「2024クリエーティブコンペ in中部(※)」で最優秀賞を受賞することができました。審査基準として3つのポイントがありました。「オリジナリティがあるか」「斬新なアイデアがあるか」「伝達したいポイントが効果的であるか」の3点です。
※「2024クリエーティブコンペ in中部」は、日本アド・コンテンツ制作協会(JAC)中部支部と中部CM合同研究会が主催するCMコンペティション。受賞した「引越し侍 ちっちゃい「っ」いらん篇」は、当作品の映像制作を手掛けた映像制作会社の株式会社シースリーフィルムによるエントリー。
https://www.advertimes.com/20250107/article485782/
この3つが評価されての受賞だったのですが、個人的にはいつも意識していることであり、自分の中ではずっと当たり前のことと捉えていました。それが客観的に評価されたのがとても嬉しかったです。
クリエイターとしての信条と今後の展望
自社にしか言えないことを見つける
最近、特に意識しているのはユーザーが自社のサービスを「選ぶ理由」をつくること。言い換えると、「そのサービスしか言ってはいけないこと」を見つけること。市場に競合がいる中で、他社と同じことを言っても効果はありません。競合が言えない、自社でしか言えないことを探す。それを強く意識しています。
特にエイチームに入社してからより強く意識するようになりました。広告代理店時代はクライアント企業の、つまり他社のサービスの広告を制作していました。今は自社サービスのクリエイティブを行っています。自分たちのサービスを選んでもらいたい、サービスを成長させていきたいと考えるようになりました。
創造力を発揮するためにクリエイターに伝えたいこと
情報をそのまま真っ直ぐ伝えたほうがいいのか。真っ直ぐに伝えないほうがいいのか。それについて考えるべきだと思います。
例えば、今すぐに情報が欲しい人にはストレートに伝えたほうがいい。でも、ストレートな伝え方だけだと、今はその情報が必要ないけどいつかは必要になるかもしれない人を置き去りにしてしまう。いつかは必要になる人に対しては、ストレートに伝えるよりも印象に残る伝え方をしたほうがいいです。この伝え方は、サービスを長く継続していくことにも影響してきます。真っ直ぐに伝えるのか。印象に残るように伝えるのか。この切り分けを意識することが大事だと思います。
もう一つお伝えしたいことは「やらない後悔より、やって大成功」。これはテレビである芸人さんが言っていたことなんですが、よくよく考えてみると、とても大事なことを言っている。仕事をしていて「この企画は実現が難しいだろう」「提案しても通らないだろう」と思うことはあると思います。そのまま諦めてしまう場合が多いと思いますが、それを「やってしまえ」と。少しでも可能性があるのならば、結果として大成功するかもしれない。だったら、遠慮せずにどんどんやったほうがいいと思います。
エイチームのサービスを「選ぶ理由」をつくっていきたい
エイチームのサービスをもっと多くの人に知ってもらいたいです。どうやったら知ってもらえるのか?それを追求していきたいです。また、先ほど「選ぶ理由をつくる」「そのサービスしか言ってはいけないことを見つける」というお話をしましたが、それぞれのサービスについて「選ぶ理由」を考えていきたいです。
『引越し侍』を選ぶ理由。『ハナユメ』を選ぶ理由。『ナビクル』を選ぶ理由。それをちゃんと明確にして発信していくことに注力していきたいと思っています。今後はもっと多くのサービス・・・いや、エイチームの全てのブランディング、クリエイティブに携わりたいです。「西田をどんどん使ってください!」と社内にはアピールしたい。ほんと、上手く使ってください。よろしくお願いいたします。