コラム
2025/11/06
【社員インタビュー】結婚式を諦めてほしくない。社員発案のLGBTQ+研修が『ハナユメ』の意識を変えた
結婚式場情報サイト『ハナユメ』を運営するエイチームライフデザインのブライダル事業部では、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン推進の一環として2025年3月から5月にかけてブライダル事業に携わる全社員を対象にLGBTQ+に関する研修を実施しました。ミッションである「一組でも多くのカップルに“理想の結婚式”のきっかけを」を実現するためには、多様な価値観や背景を持つお客様に寄り添う姿勢が不可欠であると私たちは考えています。今回は、本研修を自ら企画・運営したウエディングアドバイザーの酒井捺希さんにインタビューしました。
エイチームライフデザイン ブライダル事業部 シニアアドバイザー 酒井 捺希さん
ウエディングプランナーを経て、2017年にエイチームブライズ(現 エイチームライフデザイン)へ入社。ウエディングアドバイザーとして経験を積み、ハナユメウエディングアドバイザーの接客応対スキルの向上を目的とした社内コンテスト『BEST WEDDING ADVISER AWARD』で全国1位を複数回獲得。現在はシニアアドバイザーとして新宿西口店に勤務する。
私がLGBTQ+の研修を実施した理由
どんな方が結婚式を諦めてしまうのか?
『ハナユメ』では、「一組でも多くのカップルに“理想の結婚式”のきっかけを」というミッションを掲げています。
結婚式は人生においてかけがえのない瞬間ですが、残念ながら、この “きっかけ”を得られず、結婚式を諦めてしまうケースがあるのではないかと感じていました。特に、多様な価値観や背景を持つお客様が、既存の結婚式の情報やサービスの中で自分たちの形を見つけられず、「自分たちには結婚式は難しい」と諦めてしまう状況があります。その中でも、LGBTQ+の方々が結婚式の選択肢を見つけられずにいる現状があるのではないか、という課題意識がありました。
私たちは、ミッションを実現するために、結婚式を諦めてしまうこうしたカップルにこそ、積極的に寄り添いたいと考えています。そのためには、多様な価値観を持つお客様お一人おひとりの想いを大切にする姿勢と、それに応えるための知識を持つことが、すべてのスタートだと考えました。
この考えを上司に相談したところ、外部の研修を受けて、「学んだ内容を社内にアウトプットしよう」とアドバイスをもらいました。このアドバイスをきっかけに、まずは全社員が多様性への理解というスタートラインに立つため、研修という形で社内への取り組みを始めることを決意しました。
たとえ話で身近に感じてもらう
社内研修は、プログラム作成から講師まで私が担当しました。研修では、LGBTQ+の基本的な知識、ジェンダーや性についての考え方、当事者の方々が抱える悩み、正しい知識を持つことの大切さ、日本の婚礼における課題、他社の取り組み、LGBTQ+における社会的な経済効果の他、SDGsの観点など、幅広い内容を扱いました。参加者が他人事と捉えないよう、身近に感じられるたとえ話をいれることを心がけました。例えば、「LGBTQ+の方は10人に1人の割合で、学校のクラスで言うと3人くらい。左利きの方の人数や、佐藤さんや鈴木さんと同じくらいの数です」と説明することで、自分事として理解してもらえるように工夫しました。

苦労したこと、やりがいを感じられたこと
自社向けに研修資料をゼロから作成
社内研修資料をゼロから作成するのは大変でした。ただ学んだ内容を伝えるだけでなく、事業に合わせた内容・構成にする必要があり、外部研修で学んだ以外の情報を収集しなければなりませんでした。また、お客様と直接関わらない職種の人たちにも考慮した内容を組み立てていくのは難しかったです。
『ハナユメ』を最初に認知されるときはどんな状態がいいのか、何を見てお客様は『ハナユメ』にたどり着くのか、何があったら利用しようと思うのか、どんな時に離脱してしまうのか・・・といった観点も取り入れることで、すべての職種の人たちに伝わるよう、意識しました。
メンバーからもらった嬉しい一言
大変なことも多かったですが、やりがいに感じる瞬間もありました。研修を実施した後に、開発職のメンバーから「以前から必要だと思っていた。何かやらないといけないと思っていたけど何もできていなかった。今回の研修で良い気づき、きっかけを得られた」と言ってもらえたんです。この一言で、私以外にも同じ課題意識を持つ人が社内にいることを実感し、研修を実施して良かったと思いました。
事業部全体の意識を醸成する
私たちは、多様なカップルに寄り添う必要性は感じていました。しかし、具体的なLGBTQ+のお客様からの問い合わせがまだ少ない状況だったため、ニーズや課題を正確に把握できていない段階で、どのように進めていけばいいのかという取り組み方に関する疑義が生じていました。「たとえ取り組んだとしても、すぐに事業の成果に結びつかないのではないか」という懐疑的な意見も、一部には存在していました。それでも会社として、事業として取り組むことが重要だと捉えられるかどうかが、研修前の課題だったのです。今回の研修によって、事業部全体の意識を醸成することができたのは、非常に有意義なことだったと感じています。
研修に対する社員たちの反応
左利きをテーマにした研修はない
今回の研修に対して、ほとんどの社員が好意的に捉えてくれました。いろいろな声を聞く中で特に印象に残ったものがあります。「LGBTQ+の人と同じくらいの割合でいる、左利きの人に対する研修は、わざわざやらなくてもお箸の向きを変えるなどの配慮が自然にできている人が多いです。ですが、LGBTQ+に関する研修はいるんだと思ったら、少し切ない気持ちになりました。LGBTQ+の方に対しても、自然に気遣いができる時代が来るといいなと思いました。」という意見です。私も新たな気づきになりましたし、こういった視点を共有できるようになったこと自体、とても意味のあることだと思いました。
子どもたちの未来のために
社員からの反応が特に大きかったのは、「未来の子どもたちのためになる」というメッセージを伝えた時でした。子どもがいる社員が多く、「子どもたちの未来がより豊かになるために私たちが変わらなければならない」という思いが、多くの社員の共感を呼びました。自分たちの子ども世代が自由な選択肢を持って、自分らしく生きられるようにしたい。そうした考えが、研修への高い関心につながったのだと思います。
自発的な動きが広がる
研修後、アドバイザーの社員から「大切な取り組みだから一緒にやりたい」という申し出があり、二人三脚で進められるようになりました。
6月のプライド月間では、全国の『ハナユメウエディングデスク』でレインボーフラッグの設置や、オリジナルのレインボーロゴも作成するなど、さまざまな取り組みを実施しました。また、アドバイザーが自ら結婚式場の方々に取り組みを伝えたり、逆に足りない部分についてヒアリングしたりするなど、自発的な動きが広がり始めました。結婚式場の方からも「自分たちも変わらないといけないと思っていたんです」と言っていただく機会もあり、私たちと結婚式場双方がより意識的に取り組めるきっかけになりました。
ブランド全体の取り組みとして打ち出すために
今回のLGBTQ+の取り組みは、ハナユメブランド全体の取り組みとして進めていきたいと考えていました。でも、当初ブランド資産構築部から「一部の社員が学んだだけでは、実態と伴っていないので、ブランド全体の取り組みとして打ち出すのは難しい」という指摘もありました。その後、事業部の全員が研修で学ぶことが方針として決まり、ブランドとしてこの取り組みを推進していけることになったため、ブランド資産構築部のデザイナーがレインボーのロゴを作成してくれました。ブランドとして取り組んでいくことを対外的にアピールできるようになり、大きく一歩前へ踏み出せた実感がありました。

研修で得た知識を実務で活かすために
現状を変えようと行動した方にお応えしたい
以前から多様性への取り組みは大切なことだと思っていましたが、研修を通して、私自身も本当は全然理解できていなかったんだなと感じました。そして、無意識な偏見が人を傷つける可能性があることに改めて気づかされました。LGBTQ+の方には「自分たちが結婚式を挙げることで現状を変えたい」と強いメッセージ性を持っている人が多いことを知り、結婚式を挙げたいLGBTQ+の方に対して私ができるお手伝いをしたいと思いました。たぶん、結婚式を挙げないという選択をする方のほうが割合としては多いと思うんです。そんな状況でも結婚式を挙げる選択をされた方、行動を起こしてくださった方に対してお応えしたいと強く感じました。
知識を整理してマニュアルを作成
研修後、LGBTQ+の方がご来店され、接客を対応したアドバイザーは研修で得た知識を活かし、結婚式場のご紹介をしました。その結果、式場見学を経て、ご成約につなげることができました。この接客をきっかけに、誰もが安定した接客を行えるようにマニュアルを作成しました。例えば、来店時の注意点やヒアリングすべき内容を言語化し、当事者の方へのヒアリングで得た「寄り添ってくれるのはありがたいが、それを求めていないこともある」といった繊細な情報も反映させました。また、お問い合わせをいただいても来店に結びつかないケースが続いたこともあって、お問い合わせ時の電話対応の仕方など来店前の対応も含めてマニュアル化を進めていきました。
多くの人を巻き込んで取り組みを推進
サービスの成果と社会的価値のバランス
私たちは営利企業として、業績の向上はサービス運営の使命であると考えています。同時に、事業の成長と社会への貢献は両立させるべきであり、そのバランスが大切だと思っています。そうしたなか、多様性に配慮した取り組みは、すぐに業績向上につながるものではないため、悩みました。今回も、ブランドとしての発信に至るまで約1年を要し、サービスの存続と、ブランドの社会的価値を両立させることの難しさを実感しました。
しかし、上司の「社内のさまざまな部署を巻き込むとスムーズに進められる」という助言が大きな転機となりました。関係部署と連携したことで、取り組みへの共感や理解が深まり、取り組み全体の推進力が一段と高まりました。その結果、ブライダル産業新聞など外部メディアにも取り上げられ、私たちの活動を業界全体に発信することができました。
今後、実現していきたいこと
よりインクルーシブなサービスへ
今後は研修によって得られた知識や考え方をサービスとして機能させていくことはもちろん、LGBTQ+の観点だけではなくて、よりインクルージブなサービスにしていきたいと思っています。幅広いお客様が安心して相談できる、理想の結婚式が挙げられるサービスに成長させていきたいと考えています。

大切なテーマだからこそ向き合い続ける
婚礼組数が年々減っている状況にありますが、LGBTQ+のカップルの方々に当社のサービスを利用して結婚式を挙げていただくことは、いずれ当社の事業成長にもつながると思います。SDGsの観点からも、すべての人が自分らしくいられる公平・公正な社会の実現は、非常に大切なテーマです。『ハナユメ』は人生の大きな節目を扱うサービスだからこそ、社会の課題に真摯に向き合い、貢献していかなくてはなりません。
私たちアドバイザーの接客は、『ハナユメ』の強みとして多くの方から支持いただいていると自負しています。1組1組にしっかり向き合うこと、それぞれのお客様の希望を叶えることを私たちは何よりも大切にしています。どんなお客様にもお応えできるのが『ハナユメ』です。引き続き、多様性も含めて様々な悩みをお持ちの方にスタッフ一人一人が寄り添い、お客様の理想を実現できるサービスを提供していきます。そして、将来的にはお客様だけじゃなくて、働く社員の多様性も認められるようにしていきたいです。偏見のない、一人ひとりが認められ、自分らしく働ける会社でありたいと思います。