“総合IT企業として多角的な事業を創出する未来へ” 林 高生 × 松岡 真宏氏

エイチーム設立20周年 記念対談 "統合IT企業として多角的な事業を早出する未来へ"

エイチーム設立20周年を記念し、エイチーム代表取締役社長の林高生が共感した『持たざる経営の虚実』(日本経済新聞出版社刊)の著者でフロンティア・マネジメント代表取締役の松岡真宏氏を招いての対談を実現。現代の経営者に求められる姿勢やエイチームの未来について意見を交換しあいました。

  • 林 高生株式会社エイチーム 代表取締役社長

    1971年、岐阜県土岐市出身。1997年に個人事業としてエイチームを創業、ソフトウェアの受託開発を開始。2000年に有限会社エイチームを設立し、代表取締役社長に就任。2012年4月に東証マザーズ上場後、史上最短の233日で東証一部への市場変更を実現。

  • 松岡 真宏氏フロンティア・マネジメント 代表取締役

    1967年、愛知県一宮市出身。東京大学経済学部卒業後、外資系証券などで10年以上にわたり流通業界の証券アナリストとして活動。2003年に産業再生機構に入社し、カネボウとダイエーの再生計画を担当。2007年より現職。『持たざる経営の虚実』(日本経済新聞出版社)など、著書多数。

“選択と集中”よりも多角化へ
今から100年続く会社をめざして

松岡エイチーム設立20周年、おめでとうございます。

ありがとうございます。1997年に個人事業のソフトウェア開発でスタートし、2000年2月にエイチームを設立。現在は、様々なウェブサービスを提供する「ライフスタイルサポート事業」、ゲームアプリなどを提供する「エンターテインメント事業」、自転車専門通販サイトを運営する「EC事業」の3事業を柱としています。

松岡『持たざる経営の虚実』にご共感いただいたのはどんな点でしょうか。

“選択と集中”の経営という固定概念ではなく、複合企業の再評価を打ち出された点です。我々が事業を多角化してきたことの理論的な裏付けを得て、「複合企業でやっていっていいんだ」と確信できた気がしました。

松岡企業活動を単一事業に絞ることは短期的に見ればメリットもあります。しかし、事業が早く成長してすぐに年老いてしまうことが多い。

ある事業が導入期から成長期、安定期、衰退期と移行する中で、複数の事業の波を重ねることが大切だと考えています。一つの事業の衰退とともに会社全体が衰退しては意味がありません。エイチームは「今から100年続く会社にすること」を経営理念に掲げており、永久に存続する企業をめざします。

松岡そう、まさに「長期的視野がない」ことが選択と集中の大きな欠点なのです。林社長は新事業のアイデアをどう発想し、それを現実化していくのですか。

規模が小さい頃にやっていたのは、あるビジネスモデルが一つの市場で軌道に乗ったら、そこから水平展開を図ることです。例えば、ある市場で成功したら、そこから一定の法則性を読み取って他の市場に横展開していく。これなら事業の多角化で懸念される過剰なコスト発生も抑えることができます。ところで、数多くの企業のコンサルティングやM&Aに携わってこられた目にはエイチームがどう映るでしょうか。

松岡例えば「引越し侍」というサイトでは、一般の人がいろんな引越し業者を簡単に比較検討できますね。これは“時間の節約”という価値を生み出すものです。一方でゲームアプリなどでは“時間を楽しむ”という価値を創造している。つまり「時間をつくって、それを楽しむ」という2方向の価値を提供する企業というのがエイチームに対する私の理解です。

確かに、そういう見方もできますね。

事業ごとに子会社を設立
“自分の仕事”としての意識を醸成

松岡事業の多角化には多彩な能力を持った人材が集まって高いモチベーションを発揮する効果もあります。林社長の“人”に対する考えはどんなものですか。

人材を確保し、その頑張りに応えるのは報酬だと思います。ただしそれだけではないと思います。最近、面接などで応募者と接して感じるのは、報酬面の条件だけではなく仕事環境の安心やぬくもりを求めているように感じます。

松岡例えば報酬が同じだとしてどの会社で働きたいか。その選択には価値観を同じくすることが大切な基準となるはずですね。

エイチームの経営理念には「みんなで幸せになれる会社にすること」も掲げています。最初は「みんな“が”幸せになる」でしたが、会社が何百人と拡大していく中で「みんなが」はどうも内向きではないか。全員が幸せになるというのはきれい事ではないか。そう考えて「みんなで幸せに向かって努力しよう」という意味合いに改めました。

松岡組織の規模が大きくなる中で様々なタイプの人がいると思いますが、そこで活力を保つには経営者が組織を混ぜ返したり壊したりすることが不可欠ですね。エイチームではどんな形で行っていますか。

子会社を設立して、思い切って運営を委ねています。例えば「引越し侍」は「エイチーム引越し侍」という子会社が運営しています。これだと「自分の会社の役割はこれ。そして自分自身の役割はこれ」という明確な意識を持ってもらえるし、役職にも就きやすいので「自分が責任を持ってやらねば」という自覚も育つと考えています。この当事者意識があるかないかで仕事の出来栄えは全く違ってきますね。もちろん子会社をまたいだ異動には明確なルールを設けるとともに、「自分はこの会社へ行きたい!」との声に応える仕組みも導入しています。

松岡情報の共有という面ではどうでしょうか。社内外のステークホルダーにどこまで情報を公開するかも現代の企業経営にとって重要なテーマですね。

毎週月曜日に「今会社で起きていること」「各事業部からの報告」「決算内容」などを全社員に公表するオープンな形をとっています。これもエイチームという会社を少しでも“自分のもの”として認識してほしいとの思いからです。また毎年1回の「家族向け会社説明会」も継続的に開催しています。

エイチームの仲間とは?
“Ateam People”8項目で表現

20年間続けてきて、今「エイチームって何だろう?」を再度問い直し、それを共通の言葉にして同じ価値観を共有するフェーズに入ったと感じています。そこで「エイチームの仲間とはどんな存在なのか?」を“Ateam People”として8項目にまとめました。1番目は「お互いを認め合える」。相手のよいところを見つけて、その人を必要とする。それが次回は相手から必要とされることになるという意味を込めています。

松岡2番目に「『儲ける』を理解する」がくるのもいいですね。よく「自社の利益よりもお客様のために」という人がいますが、本当にお客様のために何かをしようと思うなら、まずは自社が利益を上げないとどうにもなりません。

スマートフォンの登場がどんなに世の中を便利にしたかは誰もが知っていますよね。映画でも、かつては無声だったのが有声化・カラー化され、現在は立体映像まで登場して楽しくなっている。企業が儲けることは世の中を便利にし、楽しさを提供する。正しい経済活動は納税によって社会の安心・安全にも貢献するものだと信じています。

松岡8項目で林社長が特徴的だと思うのはどこでしょうか。

どれも大切なのですが、社内で活躍しているスタッフの特徴として挙げられるのは、7番目の「自分をオープンにできる」でしょうか。職場の仲間を信頼して心を開くこと。例えば、会社の同僚を自宅に招待できるか。自分の家族を紹介できるか。これは実際にそうするという意味ではなく、それくらいのオープンな姿勢で仲間に接することができるかという問いかけですね。

20年間にわたり培った
技術と顧客基盤を未来への武器に

松岡IT産業など付加価値の高い分野ではやはり“人”が財産であり、成長の決め手になるはずです。その意味で林社長の、IT企業のドライなイメージとは一線を画した、ある意味で“ウェット”な姿勢はすばらしいですね。エイチームの今後のビジョンはどんなものですか。

エイチームの初期にはインターネットの世界に未開拓の分野が無限に広がっていました。だから多少は粗いやり方でも、いち早く市場に飛び込めば勝つことができた。現在はそうではありません。どの市場に参入するにも何か武器がなければ難しい。我々の武器は「20年間にわたり培った技術と顧客の基盤」だと考えています。すでに開拓された市場にも、新たな市場にも、そしてグローバル市場にも、この2つを武器として勇気を持って飛び込みたいですね。

松岡エイチームのような会社が名古屋にあることをぜひ全国そして海外の人たちにも知ってほしいですね。私自身も今回の出会いを通して「この会社の成長をサポートさせていただきたい」と率直に感じました。

ありがとうございます。今後も果敢な挑戦を続けていきたいと思います。